44 / 284
第1章:俺の声は何!?
34:金策クエスト受注!
しおりを挟む「あの!すみません!」
「あん?」
気付いたら、既に声をかけていた。いや、叫んだと言った方がいいかもしれない。
でも、それくらいしなければ、大声で親子喧嘩を行うコイツらの耳には、俺の声など届かなかっただろう。なにせ、客の前にも関わらずこの口喧嘩だ。
ただ、客は一切意に介した様子はない。常連なのか、二人の喧嘩には慣れっこなのだろう。
「ちょっと、いいですか」
接客など一切向いていなさそうな店主が、目を丸くして俺の方を見てきた。それに続き、この店主の息子らしき若い男の視線も重なる。
両者共に体がデカ過ぎて、圧が凄い。
「お客さん。ちょっと今、取り込んでますんで。好きな席に座って待っててもらっていいですかねぇ?」
「……おい、親父。コイツ人間だぞ」
「なに?」
息子らしきエルフが、俺に怪訝そうな目を向ける。すると、息子の言葉を受けた父親の視線が、俺の一般的な丸みを帯びた耳へと向けられた。
もしや、ここは人間お断りの店なのだろうか。いや、まぁいい。どちらにせよ、俺は客ではない。
「今晩だけ、俺をここの給仕として雇いませんか」
「はぁ?」
「急に何言ってんだ。テメェ」
何か文句を言われる前に、こちらの要望を一方的に投げつける。正直、相手が屈強過ぎて、内心ビビリ散らかしているが……声だけなら、俺は誤魔化せる。ハッタリを通せる。
声優って、つまりは、そういう仕事だ。
「今、貴方方は手が足りてないんですよね?だったら、“今”、決めてください。俺も時間が無い。俺を今晩だけ雇うのかどうか。給金は……まぁ、俺の働きぶりで、そちらが決めてもらって構いません。使えなかったら、途中で追い出してください」
「さぁ、どうします?」と、俺は息子の方ではなく、父親の方らしきエルフに一歩詰め寄る。なんとなく、父親の方が息子より、より脳筋そうに見えたからだ。
相手に考える隙なんてやらない。人間だから雇いたくないという、差別的な感情を挟む隙を与えない為だ。
「こう見えて、俺は給仕の経験が、七ね……いか、かなりあります。使えない事はないと思いますけど」
「そ、そうなのか」
「おい、親父!何言ってんだ!」
最初、七年と具体的な数字を口にしそうになって……やめた。
通常の面接ならば、もちろん経験年数を具体的に示す方が効果的だろう。しかし、なにせここに居るのは、“長命な”エルフ達だ。
時間感覚が異なる相手に、正確な数値はむしろ逆効果に違いない。
「はぁ!?たった七年?そんなの未経験みたてぇなモンじゃねぇか!」なんて、俺の学生以外のアルバイト人生を“一瞬”扱いされたら、それはそれで業腹である。
「そちらが俺を一日だけ雇う事に対して躊躇う余地ってありますか?人手が足りないところに、給仕経験のある人間が自ら名乗り出た。使えなかったら追い出せばいい。賃金もそちらの判断に任せる。そちらにとって不利な条件ってあります?」
「確かに……」
「でしょう?」
脳筋店主に、ともかく言葉投げに投げる投げる。投げ付けまくる!俺の淡々とした言葉以外で、余計な思考を挟ませない為に。
「でも、テメェは人間だろうが!」
すると、良いタイミングで息子の方が脇から水を差してきた。そのせいで、先程まで俺の言葉で、思考の止まっていた父親の方の目に「それもそうだ」という、否定の色が濃くなる。
本当に丁度良かった。ここまで押したら、もういい。俺の声は、ここで引こう。ここが引き際。緩め時だ。
「そうですか。じゃあ、俺は別の店に行きます」
「は?」
「だって人間だからダメなんでしょう?それなら俺はここでは働けませんからね。この時間帯なら、どこも人手は足りてませんし、他を当たります。きっとすぐ見つかるでしょう。じゃ、頑張ってください。健闘を祈ります」
そう、俺が勢いよく背を向けた時だった。
「待て!」
「おい、親父っ!?」
はい、完全に予想通り。押してもダメなら、引いてみろ。さすが脳筋。ありがとう脳筋。
「もう、お前ぇは黙ってろ!!ともかく今は手が要るんだ!」
「でも、人間だぞ!客が減ったら意味ねぇだろうが!」
「そこは……耳を、いや、顔を隠させる!」
「はぁっ!?」
「あれ!豊作祭用の犬の被りモンが、裏にあっただろ!あれを被せてやる!」
「それはそれでどうなんだ!?」
うん、それはそれでどうなんだ。
息子の突っ込みと、俺の心境がガチ被りする。しかし、次の瞬間、俺の肩には物凄い勢いで衝撃が走っていた。
「オイ、さっさと来い!四十秒で支度しな!」
その瞬間、その懐かし過ぎるアニメの台詞に、俺の中に津波のような郷愁の想いが蘇った。
51
お気に入りに追加
235
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
神は眷属からの溺愛に気付かない
グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】
「聖女様が降臨されたぞ!!」
から始まる異世界生活。
夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。
ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。
彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。
そして、必死に生き残って3年。
人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。
今更ながら、人肌が恋しくなってきた。
よし!眷属を作ろう!!
この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。
神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。
ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。
のんびりとした物語です。
現在二章更新中。
現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)
ツンデレ貴族さま、俺はただの平民です。
夜のトラフグ
BL
シエル・クラウザーはとある事情から、大貴族の主催するパーティーに出席していた。とはいえ歴史ある貴族や有名な豪商ばかりのパーティーは、ただの平民にすぎないシエルにとって居心地が悪い。
しかしそんなとき、ふいに視界に見覚えのある顔が見えた。
(……あれは……アステオ公子?)
シエルが通う学園の、鼻持ちならないクラスメイト。普段はシエルが学園で数少ない平民であることを馬鹿にしてくるやつだが、何だか今日は様子がおかしい。
(………具合が、悪いのか?)
見かねて手を貸したシエル。すると翌日から、その大貴族がなにかと付きまとってくるようになってーー。
魔法の得意な平民×ツンデレ貴族
※同名義でムーンライトノベルズ様でも後追い更新をしています。
攻略対象者やメインキャラクター達がモブの僕に構うせいでゲーム主人公(ユーザー)達から目の敵にされています。
慎
BL
───…ログインしました。
無機質な音声と共に目を開けると、未知なる世界… 否、何度も見たことがある乙女ゲームの世界にいた。
そもそも何故こうなったのか…。経緯は人工頭脳とそのテクノロジー技術を使った仮想現実アトラクション体感型MMORPGのV Rゲームを開発し、ユーザーに提供していたのだけど、ある日バグが起きる───。それも、ウィルスに侵されバグが起きた人工頭脳により、ゲームのユーザーが現実世界に戻れなくなった。否、人質となってしまい、会社の命運と彼らの解放を掛けてゲームを作りストーリーと設定、筋書きを熟知している僕が中からバグを見つけ対応することになったけど…
ゲームさながら主人公を楽しんでもらってるユーザーたちに変に見つかって騒がれるのも面倒だからと、ゲーム案内人を使って、モブの配役に着いたはずが・・・
『これはなかなか… 面白い方ですね。正直、悪魔が勇者とか神子とか聖女とかを狙うだなんてベタすぎてつまらないと思っていましたが、案外、貴方のほうが楽しめそうですね』
「は…!?いや、待って待って!!僕、モブだからッッそれ、主人公とかヒロインの役目!!」
本来、主人公や聖女、ヒロインを襲撃するはずの上級悪魔が… なぜに、モブの僕に構う!?そこは絡まないでくださいっっ!!
『……また、お一人なんですか?』
なぜ、人間族を毛嫌いしているエルフ族の先代魔王様と会うんですかね…!?
『ハァ、子供が… 無茶をしないでください』
なぜ、隠しキャラのあなたが目の前にいるんですか!!!っていうか、こう見えて既に成人してるんですがッ!
「…ちょっと待って!!なんか、おかしい!主人公たちはあっっち!!!僕、モブなんで…!!」
ただでさえ、コミュ症で人と関わりたくないのに、バグを見つけてサクッと直す否、倒したら終わりだと思ってたのに… 自分でも気づかないうちにメインキャラクターたちに囲われ、ユーザー否、主人公たちからは睨まれ…
「僕、モブなんだけど」
ん゙ん゙ッ!?……あれ?もしかして、バレてる!?待って待って!!!ちょっ、と…待ってッ!?僕、モブ!!主人公あっち!!!
───だけど、これはまだ… ほんの序の口に過ぎなかった。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている
青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子
ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ
そんな主人公が、BLゲームの世界で
モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを
楽しみにしていた。
だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない……
そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし
BL要素は、軽めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる