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4:カミュが言った!
しおりを挟む「さぁ、いくぞっ!ループ」
顔を上げると、そこには凛とした力強い琥珀色の瞳が静かに此方を見据えていた。その背後には、大きな月が見える。その姿に、俺はふと何度も見てきたカミュの最期を思い出した。
——ループ、諦めなければ……運は必ず、巡ってくる。だから諦めるなよ。
「……カミュ!」
「ん、どうした?」
現在、九十九回目。小三の俺は百回で諦めてしまったが、今回は絶対に百回超えても諦めない!いや、今回こそはカミュを必ず死なせたりなんかしない!
「俺もカミュと一緒の時が一番楽しいよー!今度こそ最後まで一緒に居ようなー!」
思わず感極まって叫んだ直後、俺はハッとした。
「……今度こそ?」
「なっ、なんでもない!」
今のは完全に死亡フラグじゃね?言っちゃダメなヤツじゃね?
満月と花畑の中、夜風に髪を靡かせる最高シチュエーションで「今度こそ最後まで一緒に居よう」は絶対言っちゃダメなヤツだ。ただでさえカミュは「フラグな死」とか言われて唐突に死ぬのに、俺が無駄にフラグぶっ立ててちゃ世話ないじゃないか!
「なぁ、ループ」
「っま、待った!今のナシ!」
フラグ!早くフラグをへし折らないと!
ここはゲームの世界だ。作られたシナリオがある。だから「フラグなんて、そんな馬鹿な」と無視出来ないのだ。今までの九十八回のやり直しの間に、それは嫌というほど実感している。だから、絶対にこのフラグだけはへし折らないと——!
「ナシなのか?」
「っへ?」
つい先ほど、俺から距離をとっていたカミュが再び目の前に立っていた。俺よりも随分高い位置にある頭から、すべてを見透かすかのような期待感を帯びた瞳がジッと見下ろしている。
「俺と一緒に居るのが一番楽しいというのは嘘か?俺と最後まで一緒に居たいというのはナシか?」
いつも「!」を多用しまくりで、やたらと声もでかい。相手に触れる時は、男だろうが女だろうがバシバシと音がしそうな程の勢いのあるカミュが、この時ばかりはいつもと違っていた。そんなカミュの姿に、俺は思わず唾液を飲み下す。
「なぁ、ループ。どうなんだ?」
肩に触れてくるカミュの手は驚くほど優しく、指先に少しだけ力の入れられた触れ方は妙に色っぽい。
「えっ、と……違わ、ない」
思わず震えた声で返事をする。その瞬間、カミュの薄く細められ瞳に熱が宿った気がした。
そういえば、すっかり忘れていた。今は物語の中盤の終わり。
「そうか、だとすれば——」
これは、アレがくる。
「ループ、お前は俺を愛しているという事で間違いないか」
「っあ、あ。えっ……あの」
「答えてくれ、ループ。お前は俺を愛しているのか。人生を共に最期まで歩みたいと思う程に」
カミュの追い立てるような言葉と力強い瞳に、思わず呼吸が浅くなる。ハクハクと何度か呼吸を繰り返しつつ、ジワジワと顔に熱が集まるのを止められなかった。そんな俺の姿に、カミュは熱の籠っていた目を大きく見開くと、ハッキリ言った。
「俺は、お前を愛しているぞっ!」
「~~~っ!」
う、うおおお!来てしまった!今回も、カミュからの愛の告白!
「答えを聞かせて欲しい、ループ!俺は悠長にお前の答えを待つなどと言えるような男ではないからな!」
「っぁ、あ、あの……えっと!」
最早、何度目ともしれぬ「愛の告白」だったが、真っすぐで力強いカミュの瞳を見ると毎回頭が真っ白になってしまう。
「ループ、お前は俺を愛しているか!?」
「う、う、うんっ。あ、愛してる!」
今回も勢いで言ってしまった。
すると、次の瞬間俺の視界から月が消える。気が付くと、凄まじい力でカミュから抱き締められていた。息を吸い込むと鼻の奥がカミュの匂いでいっぱいになる。
「ループ、その言葉が聞けて嬉しいぞ!俺とお前は同じ気持ちだったんだな!」
「あ、えっと。う……うん」
先ほどまでの静かで凛としていた様子が嘘のように、いつものカミュに戻っている。優しく触れられていた手には凄まじい力が込められており、もしこの腕の中に居るのが俺ではなく普通の女の子だったら、きっと失神していただろう。
「あぁっ、俺はお前と一緒ならばどんな地獄も歩めそうだ」
「っえ!?」
いや、地獄は止めろ!ってかこれ以上、自分にヤバいフラグを立てないでくれ!
と、そんな俺の気持ちなど知る由もなく、カミュは「はぁっ」と熱い息を吐くと、俺の頬にその硬い手を添えてきた。
「ひっ、ぅ」
「あぁ、ループ。良い、最高に良い。こんな気持ちは初めてだ。愛おしい」
頭一つ分ほど高い位置から、とんでもなく甘ったるい声が降ってくる。何度経験しても慣れない。カミュからのこの凄まじい愛の告白。息が出来ないのは、強く抱き締められているからか。それとも恥ずかしくて呼吸困難になっているのか。
「あ、えっと。カミュ……そろそろ皆の所に、戻らないと」
「あぁ、そうだな」
そろそろ、頭が恥かしさで爆発しそうだ。早く、早く離れないと。そう思い、カミュの胸から体を離そうとした時だった。
「ループ、ここで俺は誓おう。俺は一生お前だけを愛すと」
「っン、っふぅ」
あぁ、俺はバカだ。何回も経験したのに。毎度毎度、カミュの死を回避させる事に夢中で忘れてしまう。
「ンん゛~~っ、っふ、んっんッ」
「っん……ん、ん」
いつの間にか、カミュには似つかわしくないほど優しくねっとりとした口づけで唇を塞がれていた。後頭部に回された腕が少しも離すまいと力を籠め、俺の髪を優しく撫でる。微かに目を開けると、そこには俺とのキスに夢中になっているカミュの姿があった。
「っはぁ、ぅ。かみゅ……」
「ループ、お前は本当に……最高だ」
「っん」
キスの終わりには、いつもそう告げられる。
窒息死しそうなほど強い口づけのせいで視界の霞む俺に、カミュは心の底から恍惚とした声で言う。
色恋沙汰になんて欠片も興味が無い。強くなる事だけが第一の男からの、予期せぬ愛の告白。いや、予期せぬというのは間違いだ。
「あぁ、ループ。本当にお前は可愛いな」
なにせ、この愛の告白も今回で五十回目になるのだから。
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