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番外編2:弟子と飲み会(1)

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【前書き】

本編直後。

師匠がシモンとお酒を飲むお話です。
酒に酔ったキトリス(師匠)がシモンにスリスリしたりしています。
そんなキトリスに20歳のシモンは理性を保つ事が出来るのか。

はい、R18です。
(理性保ててなかった……)

終始、キトリス視点となっております。
では、どうぞ。
----------------



『じゃあ、今日は一年生を含めての初めての飲み会なんで、皆で盛り上がっていきましょう!では、カンパーイ!』


 大学に入って、飲み会に行く機会が増えた。
 入学当初、俺は十九歳だったから、もちろんまだ酒は飲めなかった。でも、飲み会は好きだった。みんな楽しそうだし。盛り上がるし。飲まなくても、“場”には酔える。

『なに、お前。童貞なの!?』

 でも、そんな楽しい飲み会の場でも、ちょっとばかり“楽しくない事”が起こったりする。

『みんなー!聞いてよ、コイツ童貞だって!女子―!だれかコイツの筆おろししてやれよー!』
『いや、別に俺……』
『なに?それともお前、男が好きなの?マジ?ソッチ系!?』

 最悪だ。
 こんな風に、酒を飲んだ先輩が悪ノリしてぶっ飛ばしたくなるような事を言ってきたりする事もある。まぁ、たまに。いや結構頻繁に。けど、大学生の飲み会のノリだ。こういうのは仕方が無い。

……いや、仕方なくねぇわ!!

 俺は、先輩にイジられてヘラヘラと苦笑いを浮かべながらも、内心明らかに辛そうな同級生の姿に眉を潜めた。
 そう、先程の台詞は俺に対して放たれた言葉ではない。たまたま隣に座った、大人し気な同級生に対して放たれたモノだ。

 俺、こういう他人をこき下ろして笑い取るようなノリ、マジで嫌いだ。

『先輩っ!』

 俺はその場から立ち上がると、ジョッキを片手に楽しそうに笑う先輩に声を荒げた。俺の隣では、先程までヘラヘラと笑う事しか出来ずに居た同級生からの視線を感じる。

『な、なんだよ』
『あの』

 俺が何を言いだすのか、先輩が身構えるのが分かった。
 俺の声に周囲で別に盛り上がっていた面子までもが此方へ集中する。ピンと張り詰める空気の中、俺は静かに息を吸い込んだ。

 そして次の瞬間。俺は勢いよく先輩に抱き着いていた。
 いや、抱き着いたというよりタックルした。

『先輩っっ!俺、酔っちゃったー! 』
『はぁっ!?何だよ、急に!お前、一滴も飲んでねぇだろうが!』

 俺が先輩に抱き着いた瞬間、それまでピンと張り詰めていた飲み会の空気が一気に弛むのを感じた。よし、これなら続けても大丈夫そうだ。

『先輩!この後、ちょっと二人で抜け出しませんか!?』
『意味わかんねぇっ!なんで、お前と二人で抜けだすんだよ!』
『俺、ソッチ系なんで!先輩、筆おろしお願いしますっ!』
『はぁっ!?』

 必死にくっ付く俺の体を、先輩が必死に引きはがそうとしてくる。

『おいおいおいおいっ!マジで止めろ!気色悪ぃわっ!』

 クソッ!俺だって気色悪いわ!でも仕方がないっ!
 出来れば、飲んでなくても酒の場は楽しくありたい。それが無理なら、出来るだけ嫌な思いをする奴は居て欲しくない。少なくとも、俺の見える範囲では。

『みんな協力して!俺、今日先輩を落とすから!』
『どこにだよ!?地獄か!?』

 俺の言葉に、周囲から一斉に笑い声が上がる。良かった。皆も楽しそうだし。もう大丈夫そうだ。多分、俺の隣に居た奴も、さっきよりはマシだと思う。後は自分で好きな奴と楽しく話してたらいい。

『先輩!よろしくお願いしますっ!』
『まじでやめろっ!』

 あぁ、この先輩。名前何だったっけ。


        〇



 飲み会が終わった。
 店の前でしばらく皆と一緒に騒ぎ合っていたが、俺は次の日も授業が早いため、一足早くその場を後にした。

『っふーーー』

 うん、今日も楽しかった。少しばかり微妙な瞬間もあったが「総じて楽しかった」と言っていいだろう。

『酒かぁ……』

 まだ二十歳ではないので、終始ジュースを口にしていた俺だが、それもあと一カ月足らずで終わる。二十歳になったら、俺も酒が飲めるのだ。美味しく感じるかどうかは分からない。

 ただ、皆、酒を飲むと色々と人格が変わる奴も居るし、俺も是非試してみたい。
 俺はどうなるのだろう。先輩みたいに、他人を傷つける下ネタを言うような奴でなければいいけど。

 そう、思った時だった。

『あ、あの……!』
『ん?』

 振り返ると、そこには最初に俺の隣の席に座っていた同級生が居た。どうやら、俺を追いかけて、皆の中から抜け出して来たらしい。

『あ、ああ、あの。今日は……ありがとう』

 おお、礼を言われた。
 別にそんな大層な事をしたつもりはなかったが、まさかこうしてわざわざ礼を言いに来る程とは思わなかった。

『あー、別にいいよ。俺が勝手にやった事だし』
『……それでも、本当にありがとう。嬉しかった』

 そう言って小さく頭を下げる気の弱そうな相手に、俺はちょっとばかり気分が良くなった。そんなつもりはなくとも、やっぱりこうして礼を言われるのは嬉しい。

『いいって。俺、あぁいうの嫌いなんだ。それに、童貞だからって何が悪いワケでもないんだしさ』

 なにせ、俺も童貞だし。
 でも、大丈夫。俺はこの大学4年間で、相性ピッタリな可愛い彼女を見つけて二人で一緒に“初めて”を経験していく予定だから。別に今は童貞でも平気。

『だから、あんなの気にしなくても……』

 そう、俺が相手を慰めるつもりで言葉を続けた時だ。

『あ、あの。俺、童貞じゃないよ』
『…………そっか!』

 酔ってもないのに、無性に泣きたくなった。
 その後、俺はソイツから家が近くだから泊まっていかないか?と誘われたが、丁重にお断りした。いや、ほら。明日の授業の荷物とかあるし!別に、嫉妬したとか、負けた気がしたとかじゃないし!

 童貞って恥ずかしい事じゃないし!!

『今度、お礼に奢るから……一緒に飲もうよ。コレ、俺の連絡先』
『あ、うん。あんがと』

 このサラリとした気遣い。コイツ、地味だけど普通にモテる奴だわ。

『じゃ、またな』
『うん、またね』

 そう言って、俺達は手を振って別れた。
 しかし「一緒に飲もうよ」と、誘われたその約束を、俺は結局果たす事は出来なかった。そうなのだ。二十歳になって、酒を飲むようになる前に俺は死んでしまった。

 だから、俺はイマイチ分かっていない。
 俺が酒に酔ったら、一体どうなるのかを。




番外編2:弟子と飲み会

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