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番外編1:師匠を探して(3)
しおりを挟む「シモン。これ、見てー」
「しもん、おなかへったぁ」
「シモン、こっちに来てー!」
「しもん、あそんでー」
「はいはい、ちょっと待ってな。順番」
俺はチビ達の「兄貴」だ。
皆、俺と同じ孤児だから、周囲には守ってくれる大人なんて誰も居ない。誰かが守ってやらなきゃ、すぐに死んでしまう。
そんなチビ達を守るのは、一番年上の俺がやらなきゃならない。それは俺の大事な「役割」なのだ。
「おれ、しもんみたいになりたいー」
「へぇ、なんで?」
「だってぇ、かっこいいからー」
「ふふ、そっか。ヤコブは俺みたいになりたいんだ」
まぁ、「年上だから」なんて、偉そうな事を言ってはいるが、ただ単に自分を頼って甘えてくるチビ達が可愛いから、俺が勝手にそうしているだけだ。それに、チビ達が居れば俺も“一人”にならずに済む。
一人の方が生きるのはラクかもしれない。でも、一人だと寂しい。楽しくない。
皆、俺の大事な家族だ。
そう思っていた筈なのに。
「しよー」
「ほら、ヤコブ。口開けろ。あーん」
「あーん」
最近、皆が師匠に甘えてるのを見ると、物凄く腹が立つようになった。特に、ヤコブは師匠にべったりだった。
でも、それは仕方がない事だ。
ヤコブは教会のチビ達の中で一番小さい。だから、世話を焼いて貰えるのは当たり前で、もちろん俺だってそうしてきた。
それなのに、師匠がソレをするとムカついてムカついて仕方がない。
だから、師匠と二人だけの時、俺は必ず尋ねるようになった。
「俺、師匠の弟子の中で何番目に強い!?」
これは弟子じゃない他の奴らには聞けない質問だ。
俺は、師匠に「お前が一番だよ」って言って欲しくて敢えてこんな聞き方をする。それなのに、師匠ときたら俺が考えてるよりもっと嬉しい事を言ってくれるのだから堪らない。
「俺にはお前しか弟子は居ないよ」
師匠の弟子は“俺”しか居ない。今まで居た事も、これから作る事もないって、師匠は言ってくれた。だから、俺が師匠の弟子でいられるうちは、俺が一番で、俺が唯一。
それなのに――。
「おれも、しぎゅおうするー!」
なんで、皆。俺から“師匠”を取ろうとするんだよ。師匠は俺だけの師匠なのに。
「お前は小さいから修行なんて必要ないだろ!?あっち行けよ!」
「うぁああぁあんっ!じ、じじょーっ」
あぁ、俺は“兄貴”失格だ。
「……いいよな、ヤコブは。泣けば甘えさせえて貰えるんだから」
あんなに守ろうと必死になっていたチビ達を、心底邪魔だと思うようになってしまったんだから。
「シモン、コレ見ろ」
そう言って服を脱いだ師匠の体には、俺の付けた傷がハッキリと残っていた。
「ぅあ、コレは……」
「お前が、俺に付けた傷だよ。凄いだろ?」
普段、洋服と装備の中に隠れた師匠の体は、思ったより日に焼けてなくてなんだか綺麗だった。そんな師匠の体に入る真っ赤な傷痕。痛々しい程ハッキリと残るその傷痕に、俺は何故か腹の底がゾワゾワするのを感じた。
「コレは、俺が師匠に付けた傷」
「っん」
その傷に、俺は自分の指をソッと這わせる。その瞬間、師匠の口から漏れた甘い声に、それまで感じた事がない程の衝撃が背中に走った。
なんだ、コレ。凄く変な感じがする。体が、熱い。
「俺の弟子は後にも先にもシモンだけだ」
「ほっ、本当に?」
「うん。俺、お前以外に弟子は取らないって決めてるから」
そう師匠に頭を撫でられながら口にされた言葉は、優しくて、静かで、そしてとても甘かった。師匠に甘やかして貰えると、腹の底がゾワゾワしたり、背中がビリビリする。でも、全部気持ちが良い。
「シモン。俺には甘えていいからな」
あぁ、甘えるってこんなに気持ちが良い事だったんだ。だから、皆あんなに俺に甘えてきてたんだ。
「シモン、一緒に魔王を倒そうなー」
「……ん」
師匠が一緒なら、俺は何でもいい。
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