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番外編1:師匠を探して(2)
しおりを挟むガキ共を面倒見る変り者の道楽貴族。
いつしか、師匠は周囲からそんな風に呼ばれるようになった。
そりゃあそうだ。身寄りのない貧しい子供の世話を、何の見返りもなくやるなんて、それこそ貴族の道楽としか考えられない。
まぁ、師匠が回りからどう言われようが、俺には関係ない。
ただ、途中から我慢ならないネタが、その噂の中に混じり始めた。
「道楽」の部分が「変態」に置き換えられ、俺が師匠に体を売っているなんて噂が飛び交い始めたのだ。その時の俺は、師匠が回りのヤツから何と言われようがどうでも良かったが、俺が「オンナ」扱いされているのは我慢ならなかった。
だって、俺の母親は“オンナ”を売って生活していたせいで死んだから。俺は、あんな生き方ごめんだ。俺は絶対あんな惨めな死に方ごめんだ。
それなのに。
「ほーら、シモン。帰るぞ」
師匠ときたら、そんな噂なんて知りもしないで夜中に教会を飛び出した俺を追いかけてくるから堪らない。あぁ、もう。面倒くさい。
「なぁ、早く帰って一緒に寝ようぜ」
誤解を招くような言い方すんな。
正直迷惑でしかなかった。だって、師匠と居るところを、他のヤツに見つかったら面倒な事になるのは目に見えていたから。だから、俺なんて放っておいて欲しかったのに。
そしたら、案の定、面倒臭いヤツらに絡まれた。
「っは、どうせテメェの事だ。ガキ好きの変態貴族にケツでも差し出したんだろ。お前、顔だけは母親に似て女みてぇだもなぁ?」
俺はオンナじゃない。男だ。
どこに行ってもそんな風に言われるけど、俺は自分の体を売った事なんか一度もない。でも、何を言っても、誰も信じてくれない。
それは俺が弱いからだ。
それが、俺には悔しくて悔しくて堪らなかった。でも、言い返したくても俺には、それを証明するだけの力が無い。ガキだし、ひょろひょろだし。力じゃ何をどうしたってコイツらに敵わない。だから、生きる為にはプライドを捨てて逃げるしかない。
今回も、そうするしか無かった筈なのに。
「シモンは立派な男の子だ!勇者なんだから!」
師匠が俺の代わりに、アイツらに言い返してくれた。しかも、それだけじゃない。
「シモン、ここで見てろ。師匠がちゃんと強い所を見せてやる」
師匠は本当に強かった。
刃物を持ってる、自分よりも凄く大きな相手を簡単に全員倒してしまった。その辺に落ちてる小石と、自分の拳だけで。
「すげぇ……」
でも、それだけじゃない。師匠はそんな状態で更に手加減をしていた。相手を殺さないように。あんまり怪我しないように。
あんな風に自分をバカにしてきた相手にすら、そんな優しさを見せる師匠に俺は思った。
本当に強い奴って、師匠みたいな奴の事を言うんだって。
「本当に!?俺も師匠みたいになれる!?」
「シモンなら、修行したら絶対に俺より強くなれるぞ!」
そう、師匠は本当に嬉しそうな顔で俺に言った。その顔を見て、俺はなんとなく分かった。師匠は、お世辞でこんな事を言っているワケではない。本気で俺が強くなると思っているんだ、と。
「シモン用の木刀も買わなきゃな」
「っっっ!!」
強くなる修行の為に、俺専用の木刀も買ってくれると約束してくれた。俺はワクワクした。俺も師匠みたいに強くなったら、自分の尊厳を傷付けられても逃げずに立ち向かう事が出来る。そう思ったら、嬉しくて、楽しくて、物凄く元気が出て来て。
初めて、早く明日になって欲しいって思った。
「じゃあ、俺の心臓の音だけ聞いてな」
「わかった、師匠」
俺はその日、師匠から“尊厳”を守られ、“安心”を与えられた。師匠の腕の中は温かくて、俺は生まれて初めてグッスリ眠った。
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