それは雨に濡れる日

ぐざい

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それは雨に濡れる日 4

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私は、君がコーヒーを飲む姿を見るのが好きだったんだ。カップを満たすコーヒーに息を拭きかける君の姿は、僕を夢中にさせたよ。クザキ君、君はね、無自覚に私を狂わせた。君は全てが妖艶だった。私は君の全てが欲しくなった。でもそんなことは叶わないね。そしてそんなことに全力になれるほど、私はもう若くはない。寂しいことだけれど、あまり多くを望まないことも幸せになるには重要なんだよ。

ところがある朝、私はとんでもないことに気が付いた。私は君が使っているコーヒーカップに欲情した。自分でも驚いたよ。なにが急にそうさせたのか、わからない。
私は考えた。考えろ。だめだった。考えられなかった。どういうことだ。陶器のカップだぞ。これは物だ。硬く冷たい陶器なのだ。それなのに。私はその、君の、マグカップに、自分の理性を抑えられなかった。
マグカップの持ち手に舌を滑らせた。カップの温度が伝わってくる。夢中で舐めた。たまらなくなって歯を立ててみた。硬さが歯に伝わってくる。湧き上がる罪悪感。歯が当たり、かつんと音が鳴った瞬間に起こる背徳感。もう、止められなかった。コーヒーカップのふちを舌の先でなぞる。クザキ君がよがる姿が記憶の中でよみがえる。私は君のコーヒーカップで、あらゆることを試した。クザキ君が起きてくるまでのあいだに、私は、思いつく全てのことをした。息があがる。自分の舌の不自由さに歯がゆさを感じたのは初めてだったよ。

下着の中では自分が大きくなっていて、とても止められそうになかった。我慢ができない。でもクザキ君にこの姿を見せることはどうしてもできなかった。私は自分の唾液で汚れたコーヒーカップを急いで洗い、水切り籠に伏せ、そのまま浴室に向かった。だめだ、イキそうだ。それでも努めて冷静に大きな音を立てないように動いた。
私は脱衣所で寝間着をむしり取るようにして脱いだ。衣服を煩わしく感じたのは久し振りだった。浴室に駆け込みシャワーの栓を開ける。最初に出る冷水を浴びれば少しは落ち着くかと思ったが、むしろ逆だった。肌に触れる冷水が私をさらに過敏にさせる。私の股間はまだいきり立っていた。治まらない。シャワーの温度が上がっていく。私の息も合わせるように上がっていった。私は自分のいきり立ったそれを掴んだ。夢中で手を上下させる。
自分の舌がカップの舌触りを思い出そうとする。コーヒーカップを掴んでいた右手を自分の唇に当て、カップの滑らかな表面を思い出そうとした。頭がおかしくなりそうだった。コーヒーカップの表面が私を興奮させて放してくれない。私はカップの持ち手に歯をあてた感触を思い出すために自分の右手の指を噛んだ。歯に当たる硬い感覚はどんなものだったろうか。私の指の感覚はカップの持ち手からは程遠かった。その程遠いさまがさらに私を興奮させる。
私の股間がさらに熱く硬くなり、腰の感覚がぼやけ始め、私は夢中で手を動かした。そうして私はオルガスムスに達する。立っていられない。息があがる。こんなマスターベーションは初めてだった。

私はしばらく動くことができなかった。シャワーの音がする。自分の荒い息遣い。下半身に感じる熱。痙攣したようになっている両足。セックスの後だって、なかなかこうはならない。それなのに。私は、恋人のコーヒーカップでこんなになった。その時はまだ、これが、いわゆる対物性愛というものだということを、私は知らなかったのだ。
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