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旅に出ることにしました 2
しおりを挟む両拳を握って気合を入れる。野営の準備、サクサクっと進めないとな!
頭の中で段取りを考えながら、パタパタと周りを歩き回った。
これでも高校時代からバイトに、家の手伝い、畑の世話と労働に明け暮れていたのだ。忙しく動き回るのなんて慣れてるしな。
まずカローリたちに用意していた固形資料の餌をあげ、次に荷物を整理していく。
そして薪拾いの後に火起こしをする。道具も使い慣れないし、始めはすごく時間がかかったけどこれもだんだん慣れてきた。
その合間を縫って辺りの木の実を摘んでいく。
草原でもたまに見かけてた低木になる赤い木の実。これって確かカローリたちが食べられるやつだったはず。携帯食料だけじゃかわいそうだもんな。
念のため二人が帰ってきたら食べれるかどうか確認してもらって、安全そうならあげよう。
あとは料理の準備だな。獲物はこの辺だとどんなものが捕れるんだろう。まあとにかくスープとパンの用意を進めよう。
二人ともまだかな?
彼らが歩いて行った先にある森に目を向ける。もう日はかなり傾いておりは一足先に闇に染まっていた。
木々の種類なんかはこの世界に来て初めにいた森に似てるけど、この森は谷の底にあるせいか闇が濃くもっと鬱蒼として見える。
ん?
その時視界の端に何か違和感を感じた。
はっきり何かが見えたわけじゃないけど…、でも、木の陰に何かいるような…。
動物かな?でも生き物がそばにいるにしてはカローリ達が大人しい。
カローリは繊細な性格だから魔物じゃなくって無害な動物でも仲間以外の者が急に近づいてきたら絶対騒ぐはずなんだけど…。
じっと見てると辺りの木々ががさりと揺れたような気がした。
そしてその中で一際目立つ大きな木に隠れるように影が動いたような?もしかして、誰かいるのか?
「クエ~…」
そちらに近づこうと足を踏み出した俺を、服の裾を加えてカロが引き留める。
首を傾げてこちらを見つめてくるんだけど、俺のことを心配してくれているのかな?
「大丈夫、遠くにはいかないよ。ちょっとそこの木の辺りの様子を見に行くだけだから」
一瞬、ガロスさん達を遠呼びの腕輪で呼び寄せたほうがいいかな、という思いが過ったが直ぐにそれは却下した。だってまだはっきり何かを見たわけじゃない。
動物にしろ、人にしろ、せめて何がいるかが分かってから呼ぼう。すぐ側にいるんだし、それから呼んだって遅くないし。
カローリ達が安心するように首を撫でてやると嬉しそうに目を細め、咥えていた服も離してくれた。
念のため買ってもらったナイフに手を持ちつつ、ゆっくり木に近づく。
がさっ、がさっ。
聞こえるのは俺の足音だけだ。
なるべく音を立てないよう慎重に進み、木の側までやってきた。
さっき見たときはこの大木の後ろに何かいた気がしたんだよな。でも近づいても何の気配もない。
「だ、誰か、いるのか?」
当然その問いかけに答える声はなく、辺りは森の自然音がするばかり。
一応木の後ろにも回り込んでみたけど小動物一匹すらいた様子はなかった。
気のせいか…。
ふう~ッと大きく息を吐く。
なんだビビっていただけか、情けない。きっとさっきのは風で木が揺れたのを見間違えたんだろう。
後ろの方から寂しげなカローリ達の声が聞こえてきた。そちらの方に顔を向け宥めるために声を掛ける。
「ごめん、何にもなかったみたいだ。すぐに戻るから――」
その途端、俺の背後で『何か』の気配が急激に膨れ上がった。
今さっき何もないのを確認したのにも関わらずだ。
俺は自慢じゃないけど霊感とか第6感的なもん一切ない。至って平凡な人間だ。
でも分かる。絶対に勘違いじゃな済まないような気配がある。
蛇に睨まれた蛙って言葉の意味が、生まれて初めて分かった。
俺は背中を向けてて姿は全く見えないはずなのに、強烈な存在感がビシビシつらい程に感じるのだ。
振り返ったら、今度こそ…何か…いる?
頭ん中はパニックだ。
汗が引っ切りなしに流れる。
どうしよう、どうしよう……でも、気になる。
ものすごく怖いのに、確かめずにはいられない。自分でも分からないけど何故かそんな気持ちになる。
俺はごくりと唾を飲み込むと、なるべくナニカを刺激しないようソロリと顔だけをゆっくり後ろへ向けた。
その途端、見えたのは……
暗闇に浮かぶ金色の目、だった。
◆◆◆
「おい、サクヤ」
「ひぎゃーーーーー!!!」
「わっ、どどどうした?」
後ろから肩をポンっと叩いたのはガロスさんだった。
心臓止まるかと思った!なんだよあれ!なんだよあれ~!
って、あれ?…何もない?
辺りをキョロキョロ見渡してみるが、あの恐怖映像は跡形もなくさっぱり消えていた。目の前に広がるのは暗闇に染まった穏やかな森だけだ。
「サクヤ?何かあったのか?」
「えーっと、つい今そこに人がいて…」
「何!?」
その言葉を聞くや否や、ガロスさんは辺りを素早く探ってくれた。
しばらく草をかき分ける音が続き、やがて落ち着いた足取りでこちらに戻ってきた。
「誰もいねえぞ?逃げたにしても、痕跡が全くねえのはおかしいし。見間違えたとかってのはねえか?」
「え…。うーーん」
いや、確かにいた。いたんだが…確かにあれは人じゃあない…よなぁ?
だって見えたのは顔どころか目だけだ。
森の暗闇の中にギラギラ輝く金色の目だけが浮かび上がっていたんだ…。
ってことはあれか、幽霊?
心霊関係が特別苦手というわけじゃないが、さっき見た強烈な光景が頭から離れず、思わず泡立った両腕を撫でた。
「サクヤ?」
「いえ!そうですね、たぶん見間違いです」
首を横に振って嫌な映像を無理やり振り払う。そして心配そうにこちらを伺うガロスさんに騒いだことを謝った。
◆◆◆
その後、戻ってきたレイシスさんも加えて夕食の準備を始める。
二人に教わって肉をさばくのにも慣れてきた。
保存食材を利用して作っていたスープに野草ときのこを加え、捌いた鳥肉は炭焼きに、あとはパンにチーズを乗せて軽く炙っていく。
よし、こんなもんかな。
「できました。どうぞ」
「おう!んじゃあ早速いただくか。…うめー!焼き加減が絶妙だな!」
「…旨い。サクヤの料理の腕はすごいな。野外での調理なのに店で食べるものと遜色がない」
「ありがとうございます」
誉め言葉をくすぐったく感じながら、自分もご飯を食べ始める。
小さい頃から叔母の台所仕事を手伝っていたし、飲食関係のバイトも長くやっているから調理自体は馴染みがある。
自分でも旅の役に立ちそうなことが少しはあってよかった。
…ふぅ。
料理はまあまあ美味しく仕上げれたけど、今日はいまいち食が進まない。
料理に夢中になっている間は忘れていられたけど、こうして一息つくとさっきの光景が嫌でも頭をちらついてしまう。
あれ、なんだったんだろう?人の目に見えたけど…眼だけのお化けなんてあるのか?
「? どうしたサクヤ?」
いつの間にか手が止まっていたらしい。レイシスさんが心配そうな顔をこちらに向けてくる。
いかんいかん、首を振って何でもないですと言い、スープを平らげた。
◆◆◆
二人は仲間ではあるけど、プライベートをきっちり分けたいタイプらしい。
俺が加わる前から天幕はそれぞれ持っていて、荷物もそれぞれ各自で管理していたようだ。
そんなわけで少人数にも関わらずパーティーには天幕が二つある。そこで話し合った結果俺が一つの天幕で就寝し、余った方を二人が見張りを交代しつつ使うことになった。
一緒に寝たいとか、我慢できないとか、見張りは俺もやりたいとか、ケガさせられないとか。
こうして落ち着くまでにかなり揉めたのだが(よく分からない希望もあったんだけど)、今ではこのスタイルで落ち着いている。
今夜、早番の見張りはレイシスさんだ。
「んじゃ、時間になったら起こせよな。サクヤはよく休めよ。おやすみ~」
ガロスさんが自分の天幕へ向かう。
それを見て俺は反射的にガロスさんの服を引っ張ってしまった。
「ん?」
「あっ」
無意識の行動に自分でびっくりする。
だけど、先ほどの目がどうしても頭から離れず手を離すことができない。
情けない自分にうんざりしつつ、ゴクリとつばを飲み込み口を開けた。
「…あの…一緒に寝てもいいですか?」
「!」
「なに!?」
ガロスさんよりも火の側にいたレイシスさんの方が素早く反応をする。
「自分でも情けないんですけど、さっき何かいたような気がしたのが気になって、一人で寝れそうもなくて…」
うー、恥ずかしくて顔に血が上るのが分かる。
でも正直な話、二人と一緒にいる間でも思い出しては何とか振り払っての繰り返しだったのだ。これで天幕の中に一人になったりしたら絶対に怖くて寝れないと思う。
ただでさえパーティの中で体力がなくて工程をゆっくりにしてもらってるのだ。
今甘えてしまう事よりも、寝不足になってこれ以上足を引っ張ってしまうほうがもっと迷惑を掛けることになる。それは嫌だ。
そのことを考えれば、こんな情けない姿を見せることに躊躇してる場合じゃない。
「えっと、隅っこでなるべくおとなしくしてるんで、って言っても狭くはなっちゃうんですけど…」
あれ?反応がないんだけど?
不思議に思ってガロスさんの顔を見るために顔をそろりと上げると肩を勢いよく掴まれた。
「わっ!」
「ぜーんぜん、狭くねーよ♪ 怖くて寝れなくなったなら仕方ねえよなぁ。
じゃあ、俺らは寝るから!レイシス、見張りよろしくな~♪」
「ぐっ…!貴様、昨日は見張りの交代時になかなか起きなかったよな…。今日その分取り返してもらおうか」
「細けぇ事をねちねち覚えてんじぇねえよ!だからおめーはモテねえんだよ!」
「?? あ、あの寝ついちゃえばもう平気なので、レイシスさんは空いてる天幕で休んで下さい。もちろんガロスさんも移動が手間じゃなきゃそうしてくれて全然構わないんで」
「なっ!いや、もしかしたら夜中に目が覚めるかもしれないじゃないか!大丈夫だ。見張りを交代した後は私がしっかり側にいて見守ってやる」
「俺だって。ずっと側にいてやるから安心してな」
「お前の場合、別の意味で心配だろう」
「その言葉そっくりお返しします~!」
この2人は気づくとこうした言い合いを始めるんだよな。
仲のいい証拠ってやつかな。
少し揉めたものの、二人のおかげで何とか眠れそうでほっとした。
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