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【Memory_2】
12.暖かい人
しおりを挟む「どうしてもお前は、世界を、この国を救ってはくれないのか」
「ああ、救えないな。」
「どうしてなんだ?」
「聞いているとは思うが、この国を救うためには暴れている精霊を大人しくさせなきゃならない。その為の力を俺たちは持っている、が。」
そう言ってからレイトは語尾を濁した。
「…恥ずかしい話だが、使役しなきゃいけない精霊と相性が悪くてな。
上手くいかないんだ使役が。」
「精霊は実在して会ってはいるのか」
「一応な。でも俺には使役は無理だな」
「…それはお前の問題だろ。そんな事を言ってたら、みんな死ぬだろ!」
俺は自分の無力さに嫌気がさす。
まるで彼にクレーマーかの如く国民の不満と称した不安をぶつける事しか出来ない。
救世主に選ばれた本人が言っているんだ、出来ないことなのだろう。
そんな不安の色が滲み出す俺を見てからなのか、レイトは呆れた様な、どこか苦しい様なよくわからない表情を顔に浮かべた。
「おいおい理解してくれたんじゃないのか?
世の中はそう、甘くないんだよミコト。」
「相性の問題なら、なんとかできることもあるだろ…」
「俺はお前に会えてよかった。
だけど、俺は救えない理由があるんだ。
世界やこの国を天秤にかけて、救えない理由が。」
「話を逸らすな!」
ここで引き下がりたくなかった。
俺にもリリィの為に引き下がれない相応の理由があると思っていた。
「……ごめんな」
だけど、だけれども。
そんな悲しい顔をされたら。
「お前は、ずるいよ」
喉の奥からやっとの思いで絞り出した言葉。
俺にはレイトの気持ちがわからなかった。
誰かから必要とされて、その気持ちを拒むことも。
レイトを待ち続けたリリィを、目の前で沢山傷つけてしまっていることも。
「.......お前こそ、望めば救世主になれるだろ」
レイトの口から出た言葉。それは彼なりの吐露だろうか。
「この国に選ばれたのは、お前だ」
俺の幼さが全面的に出てしまった自覚はある。
臆病で、押し付ける事しかせずに相手には無責任だと言って。
救世主だと名乗りをあげることもしていないのに、重い責務をレイトに押し付ける事しか出来ない。
「そんな事を誰が決めた?俺か?お前か?」
「俺とミコトの条件は一緒だ。
守りたい物があるのも同じだ。
お前は俺と本当に似てるよ。話してたら何となく分かる。
_______お前こそ、責務を放棄してるだろ。」
段々レイトの言葉が自分に刺さり、無意識だが目を逸らした。
だが、最後の一言で目を見開いた。
「俺は、1年間この土地から動いていない!
だから、彼女しか守れない。それ以外は考えられないんだ!」
「俺も同じだよ。お前が言った通りだ。」
そう笑ったレイトの顔は穏やかだった。
全てを悟っている顔。全て分かっているのに、甘んじて俺の糾弾を受け止めてくれたんだ。
「…ごめん、言い過ぎた」
「ああ、俺こそいじめ過ぎたな」
それから俺達は一旦その話を辞め、自分達の世界の話で花を咲かせた。
何度考え直してもやっぱり彼の考えは理解できない。
だけども俺は身代わりになってやれない。
「…ミコト」
扉がゆっくり開くのと同時に部屋に冷たい風が入ってきた。
暗がりから出てきたリリィの眼は充血し、少し潤っていた。
「リリィ、部屋に行ってなって言ったでしょ」
「ごめんな…さっ…」
そんなに強く言ったつもりは無いのだが、大きな瞳から涙がポロポロと溢れていた。
落ち着かせようとリリィに手を伸ばしたが、レイトが先に彼女の頭に優しく手を乗せていた。
「リリィ、ずっと俺のことを待ってくれてありがとう。
すっごく迷惑かけたな。寂しい思いもさせた。
だけど、俺は身勝手な人間だから。
お前も、世界も、救えないんだ。」
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