聖なる祈りは届かない

浅瀬

文字の大きさ
上 下
12 / 18
【Memory_2】

12.暖かい人

しおりを挟む

 「どうしてもお前は、世界を、この国を救ってはくれないのか」

 「ああ、救えないな。」

 「どうしてなんだ?」

 「聞いているとは思うが、この国を救うためには暴れている精霊を大人しくさせなきゃならない。その為の力を俺たちは持っている、が。」

 そう言ってからレイトは語尾を濁した。

 「…恥ずかしい話だが、使役しなきゃいけない精霊と相性が悪くてな。
  上手くいかないんだ使役が。」

 「精霊は実在して会ってはいるのか」

 「一応な。でも俺には使役は無理だな」

 「…それはお前の問題だろ。そんな事を言ってたら、みんな死ぬだろ!」

 俺は自分の無力さに嫌気がさす。
 まるで彼にクレーマーかの如く国民の不満と称した不安をぶつける事しか出来ない。
 救世主に選ばれた本人が言っているんだ、出来ないことなのだろう。

 そんな不安の色が滲み出す俺を見てからなのか、レイトは呆れた様な、どこか苦しい様なよくわからない表情を顔に浮かべた。

 「おいおい理解してくれたんじゃないのか? 
 世の中はそう、甘くないんだよミコト。」

 「相性の問題なら、なんとかできることもあるだろ…」

 「俺はお前に会えてよかった。
  だけど、俺は救えない理由があるんだ。
  世界やこの国を天秤にかけて、救えない理由が。」

 「話を逸らすな!」
 
 ここで引き下がりたくなかった。
 俺にもリリィの為に引き下がれない相応の理由があると思っていた。

 「……ごめんな」

 だけど、だけれども。
 そんな悲しい顔をされたら。

「お前は、ずるいよ」

 喉の奥からやっとの思いで絞り出した言葉。

 俺にはレイトの気持ちがわからなかった。
 誰かから必要とされて、その気持ちを拒むことも。
 レイトを待ち続けたリリィを、目の前で沢山傷つけてしまっていることも。

 「.......お前こそ、望めば救世主になれるだろ」

 レイトの口から出た言葉。それは彼なりの吐露だろうか。

 「この国に選ばれたのは、お前だ」

 俺の幼さが全面的に出てしまった自覚はある。
 臆病で、押し付ける事しかせずに相手には無責任だと言って。
 救世主だと名乗りをあげることもしていないのに、重い責務をレイトに押し付ける事しか出来ない。


 「そんな事を誰が決めた?俺か?お前か?」


 「俺とミコトの条件は一緒だ。
  守りたい物があるのも同じだ。

  お前は俺と本当に似てるよ。話してたら何となく分かる。
  _______お前こそ、責務を放棄してるだろ。」

 段々レイトの言葉が自分に刺さり、無意識だが目を逸らした。
 だが、最後の一言で目を見開いた。

 「俺は、1年間この土地から動いていない!
  だから、彼女しか守れない。それ以外は考えられないんだ!」


 「俺も同じだよ。お前が言った通りだ。」

 そう笑ったレイトの顔は穏やかだった。
 全てを悟っている顔。全て分かっているのに、甘んじて俺の糾弾を受け止めてくれたんだ。
 
 「…ごめん、言い過ぎた」

 「ああ、俺こそいじめ過ぎたな」

 それから俺達は一旦その話を辞め、自分達の世界の話で花を咲かせた。

 何度考え直してもやっぱり彼の考えは理解できない。
 だけども俺は身代わりになってやれない。

 「…ミコト」

 扉がゆっくり開くのと同時に部屋に冷たい風が入ってきた。
 暗がりから出てきたリリィの眼は充血し、少し潤っていた。

 「リリィ、部屋に行ってなって言ったでしょ」

 「ごめんな…さっ…」

 そんなに強く言ったつもりは無いのだが、大きな瞳から涙がポロポロと溢れていた。
 落ち着かせようとリリィに手を伸ばしたが、レイトが先に彼女の頭に優しく手を乗せていた。

 「リリィ、ずっと俺のことを待ってくれてありがとう。
  すっごく迷惑かけたな。寂しい思いもさせた。
  だけど、俺は身勝手な人間だから。
  お前も、世界も、救えないんだ。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...