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54.剣を収める鞘

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これ以上護衛騎士達を刺激するのような真似をさせたら、彼女達の命はない。


マリエルを愛している訳じゃないが、前ストラス伯爵様への恩がある。


「お前達、殺気を消せ」

「しかし殿下、この者は既に不敬罪だけで死刑に値する無礼を働いております。殿下の矜持を汚しているのです」

「王族の無礼は許されません。女王陛下並びに王配を侮辱した者に過度な情けは後々問題になります。いかに気が狂った者であろうとも」


「なんですって!」

だからそこで抵抗するなよ。
何でここまで学習しないんだよ!


余計に状況が悪化している事に気づいてくれ。


「ルイス!貴女は私を愛しているでしょ?こんな奴等すぐに罰して…私は貴女の妻なんだから当然よ」


「余程死にたいようですわね」

「リディ―…」


もうダメだ。
完全にリディ―が切れてしまった。


「えっ…」

「この悪魔が!」


「きゃああ!」


風のように早い動きでリディ―はマリエルを抑え込み首元に剣先を突きつける。


「もう我慢ならないわ。幼少期の頃に私からルイスを奪っただけでなく、十年間彼を侮辱し、蔑み人として許されないことをして…あげくの果て使い捨てにしておいて…あの時に始末すべきだったわ」

「やめ…」

「なんてことを!ルイス。あの女を止めなさい!貴方はマリエルの夫でしょう!」


あの女…?

この言葉に流石に頭に来た。
俺の事を侮辱するならば笑って大人しくできたが、リディ―の事を侮辱することは許せない。


俺が幼少の頃から大切に見守って来た姫様でもあり、今でも彼女を敬う気持ちは変わらない。


「あの女を早く…」

「貴様ぁぁぁ!女王陛下に無礼を働くとは何様だ!」

「もう我慢ならぬ!」


騎士や侍女一同は既に二人を始末する勢いだったが、彼等の手を汚させるわけには行かない。


「口を慎め無礼者が!」

「えっ…」


今すべきことはリディ―を守る事だ。
もしここでリディ―がマリエルを殺せば彼女の立場が危ぶまれる。


王はどんな時も汚れ役等すべきではない。

それをするのは俺や、配下の者達の仕事だ。

常に気高く美しくあるべき女王の矜持を守れなくて何が夫だ。


「リディ―、その手を離してくれ」

「なっ!」

「フンっ、解ったら汚い手を…」


勝ち誇った表情をするマリエルは俺が助けると思ったんだろうが、ありえない。

穏便に事を済ませるつもりだった。


リディ―を侮辱さえしなければ。

だが、既に遅い。


「美しい君の手が汚れてしまう。こんな汚らわしい女の為に君の剣を汚して欲しくない。君の剣は守りだ」

「ルイス…」

「だからどうか、しかるべき時まで剣を抜く事はしないでくれ」


彼女達を罰するのは俺の役目だ。

君を汚さたりはしない。

君が剣ならば俺は鞘なのだから。


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