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43.マリエルの失態④
しおりを挟む行く当てもなく狭い邸で三人で暮らす日々は地獄だった。
使用人もいないので食事の用意もままならず、キャルドンはあまり邸に帰って来ることはなかった。
帰って来ても時々甘い香りがして。
浮気を疑い問いただしたけど、はぐらかされる。
「もうこんな生活嫌よ!なんとかしてよキャルドン!」
「なんとかって…俺にどうしろというんだ!」
毎日のように言い争いが続き、お母様は見て見ぬふりをしている。
今では隠れ住むような生活を送っている私達は、何時何が起きるか解らない状況だった。
大雨が続き、震災が起きてしまったストラス領地はかつての姿の見る影はない。
旅先で懇意にしている貴族を頼ろうにも門前払いをされた。
聞けばルイスならばとか、ルイスがいるならと、口を開けば皆ルイスばかり。
何でよ!
あんな男の何処が良いのよ。
王都には知り合いもいない。
辺境伯爵は私達をゴミでも見る様な目で見て来たわ。
その上で言い放った言葉はこれ以上無い程を私を侮辱した。
「金の生み出す神の子を手放すとは愚かにも程がある」
「なっ…」
「あの方は女神の寵愛を受けた緑の手を持つ方…魔女にですら慈悲の心を持って接し、聖女ですら霞むほどの清らかな心を持っていたと言うのに…汚らわしい魔女には不相応だったな」
この私が汚らわしい魔女ですって?
「あのルイスが…」
「無礼者!」
「ひっ!」
辺境伯爵は私に剣を向けた。
「あの方は既に我らの主となる方。呼び捨てにするとは何事だ!若き女王陛下の夫となる方に無礼は許されぬ」
「は?」
「まさか知らぬのか?既に婚約式も終え、既にモリアーヌ公爵家に養子として迎えられていると言うのに」
「旦那様、知らぬようですな」
従者が馬鹿にしたように耳打ちをする。
何を言っているの?
あのルイスが公爵家。
しかも、次期女王陛下の伴侶ですって?
「だが感謝する。これで元の鞘に収まったのだからな」
「どういうことだ…」
「お前は何も知らぬのだな?まぁ、真面な教養を持たぬ者は知らぬだろう。知っているのは王女殿下が幼少の頃から傍でいた者や女王陛下の信頼を受ける者だけだ」
「はっきり言いなさい!」
私はイライラした。
早く話せばいいのに、わざとじらしているようにも見えたのだから。
「本来ならばルイス様がリディア様の婚約者に選ばれる予定だった。お二人は幼馴染みでもある。しかし前ストラス伯爵は王族に尽くした功績もあり、当時はストラス家は没落寸前だった」
「えっ…」
「領民が流行り病で苦しみ、作物は一切育たなかった。その窮地を救いの手を差し伸べてくださったのがルイス様とフェンネル伯爵夫人だ。あのお二人は豊穣の加護を持つ方…特にルイス様は歴代の中でも優れた緑の手を持つ」
ルイスは跡継ぎにも慣れないのよ?
魔力もなく役立たずじゃないの?
なのにどうして!
「馬鹿な、長男でありながら跡継ぎに慣れない出来損ないが…ぐあ!」
キャルドンが私の代わりに代弁してくれたが、傍にいた騎士が殴り飛ばした。
「何をするの!」
「愚かだと思ったがここまで愚かだとは…フェンネル家では優秀な者が補佐に回る事が決められている」
「はぁ?」
「ルイス様は領主の補佐としての才能を十分に持っている。補佐とは領主の懐刀であり、補佐が優秀ならば領地は栄えるが、優秀でなければその逆もしかりだ」
じゃあルイスが跡継ぎにならないのは出来損ないではなくその逆だって事?
そんなのありえない!
「今ここで殺してやりたいが、ルイス様が悲しまれるから見逃してやる。今すぐ去れ!物乞いが!」
殺されはしなかったが私達は精神的な打撃を受け、キャルドンはボコボコに殴られてしまった。
そしてその後はよく覚えていなかった。
行く当てもなく彷徨い歩く中、魔鳥達に襲われ逃げる日々が続いたのだ。
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