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24.天使の正体

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サジータが離宮で療養していた頃、部屋には頻繁に花が届けられるようなった。
日替わりで届くは花は時には素朴な花であるが、サジータの心を癒してくれていた。


お茶の時間にも紅茶を好んでいたがサジータにリラックス効果のあるハーブティーにシナモン入りのクッキーなどが置かれていた。


すべて体に優しいものばかりだった。
誰が用意してくれたのか解らず、専属の侍女も解らないとの事だったが、届けられた花にはすべて意味が込められていた。


体への気遣いや労りの花言葉を意味する物ばかりだった。


そんなある日、サジータはクローゼットに身を潜めた。
体の体調が良くなり、ある作戦を思いついたのだ。

元気が出る様に素敵なお菓子と花を差し入れてくれたのは誰か知りたかった。

サジータは小人さんと呼んでいた。


(誰か来たわ…)


クローゼットからこっそりのぞき見すると、小さな少年が部屋に入って来た。


(天使様?)

愛らしい顔立ちに夜のような髪をした少年がお菓子とお花を置いて去って行く。


「あれは…」

「サジータ妃様!」

「侍女長、あの子は誰じゃ」

「もっ…申し訳ありません!」


侍女長は廊下で待機していたのだがサジータにバレていたようだ。

「咎めぬから教えよ。天使様か?」

「あの方は、女王陛下のお気に入りの方で…ロゼッタ様もお孫様です」

「何?」

ロゼッタ様といえばフェンネル伯爵夫人の…。


「名をルイス様と…リディア王女殿下の勉強相手を務めておられまして。サジータ様の為に呼び寄せたのです」

「しかし、あのような子供がこれ程の薬草を…」


これまで飲んた薬草はどれも味もさることながら、効果ももう申し分ない。

「ルイス様は薬草の生産から採取まで素晴らしい才能をお持ちです。ロゼッタ様のように魔導士ではありませんがポーションを作る能力に特化しております。彼は緑の手の持ち主です」

「緑の手だと?」

緑の手。
それは豊穣の女神の加護を持つ稀な存在だった。

「領地では魔力がなく、冷遇されているようで…」

「馬鹿か?薬草を採取できる者は重宝されるというのに…しかも調合師でもあるのではないか?」

「はい、サジータ妃にお出ししたお茶は全てルイス様がお作りなった薬草でございます。ご病気も不治の病ではなかったようで…薬草で治るご病気だったらしく」

宮廷医師顔負けではないか!
あの幼さでそこまで聡明とは信じられぬ。


「緑の手を持つ者は皆、慈悲の心を持ってなくてはならぬ。薬草師がまさにそれだ」

「はい、ルイス様はお優しい方で…領地では苦労されているのです。言いにくいのですが…」

侍女長は顔を俯かせて話した内容は、許されるものではなかった。



聞けば婚約者とその母親に虐げられ、無能だと言われていると。
挙句の果てに入り婿であるはずが、ストラス伯爵が無くなったと同時にルイスに虐待まがいな事をしていると聞かされた。


姉上も何とかしようと試みるも本人が何も言わぬ以上は手が出せないらしい。
何よりストラス伯爵は我が国に貢献した貴族でもあるから、強く出れなかったようだが。

いくら何でもこれはないだろう。


私はあのように心優しきものを搾取する下衆な連中に怒りを覚えた。


しかし屑共はさらにとんでもない事を仕掛けたのだった。


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