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16.俺の小さな姫
しおりを挟むリディア王女は美しくなられた。
遠目から見た時からずっと思っていたけど。
近くで見ると、妖艶さが増している事が解った。
「これ以上はいけません」
「誰も気づかないわ」
「そういう問題ではありません」
一体どうしたと言うんだ。
幼少期は感情的な性格をしていたが、今は違う。
困ったお方ではあるが、感情を優先する方ではないはずだ。
「私は、貴方との約束を守る為に戦ってきました。愛する貴方との約束の為に」
「殿下、これ以上は…」
ダンスを踊りながらもリディア王女の瞳は俺を求める目で熱い視線を向けられていた。
頬に触れながらキスができる距離だった。
「今すぐ貴方を奪ってしまいたい…ストラス令嬢に貴方を奪われて十年。ずっと悔いてましたわ」
「奪われたなんて…」
「私の方が貴方と先に出会い、貴方を愛したのも私が先よ」
美しく情熱的な視線に俺は引き気味になる。
その美しい瞳に囚われたら、逃げることができなくなるだろう。
カレンディス女王陛下もリディア王女も魅力的な女性で他者を惹きつける物を持っている。
けれどその情熱を向ける相手が違う。
「私と殿下では身分が違うのです」
「なら、貴方の身分が伯爵以上だったなら私と一緒になってくれますの?」
「どうか、これ以上は…」
今日はどうしたと言うんだ。
こんな意地の悪い真似をする人だっただろうか。
そう思いながらも俺の手を握る手が震えていた。
「私は…恐ろしいのです」
「え?」
「女王として国を守る覚悟はあります。でも、一人で多くの敵に立ち向かえる自信がない」
一人って、何を言っているんだ?
女王陛下はまだご健勝で、宰相閣下もまだお元気なはずだ。
何より王配となる方が支えてに…
「家族ですら敵となるのが貴族、王家だって同じですわよ」
「ですが…お一人ではございません」
確かに、否定はできない。
貴族間の家庭環境は妻と夫の関係が良好とは言えない。
政略結婚で好きでもない同士が結婚するのだから。
結婚してから信頼を結ぶ事もあるけど、稀であるのだから。
王配となった方が必ずしも姫様をお支えしてくださるとは限らない。
「姫、どうかお忘れくださいますな」
「ルイス?」
「私達は貴女様の味方でございます。貴女様は決してお一人ではございません。例え、多くの貴族が貴女様に反旗を翻しても…私は…俺は最後の一人になっても!」
幼い頃から変わりはしない。
傍にいなくても、遠くからでも見守ろうと思っていた。
俺にできることは少ないが、俺は――。
「誇り高き花が枯れぬように雨を降らせ続けます。大地に咲く一輪の花であらせられる俺の花を」
「ルイス…」
「だから、どうか…」
一人だなんて思わないで欲しい。
不安は多いかもしれないけど、支えようとしている者もいることを忘れないで欲しい。
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