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12.親友の母親

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いきなりオスカーに拉致され風呂に入れられ、その後はオスカーの母君に着せ替え人形のような真似をされてしまった。


「あの、侯爵夫人」

「嫌ですわ、侯爵夫人だなんて…貴方は私にとっても息子同然ですのに」


フェルデア侯爵夫人の母上は親友だった事から俺とオスカーも幼少期から親しかった。
いうなれば幼馴染関係でもある。

薬草の生産量が国一番でもあることから、フェイルデア侯爵家にも薬草を提供している。
領地も隣近所なので深いお付き合いをしていた。


「貴方の晴れの舞台は私にお任せくださいな」

「いえ…私は…」

生誕祭に参加するが、王宮のパーティーでは隅っこにいるつもりだ。
元から歓迎はされないだろうと思っているので、舞踏会には参加するつもりはなかった。

「ダメよ、ダンスには参加なさいな…折角の出会いを台無しにする気?」

「私の事は御存じのはずです」

「ええ、本当に良かったわ!」

「は?」


侯爵夫人は何でそんなに嬉しそうなのだろうか?


「私はずっと貴方が気の毒で仕方ないかったのです。一族の決まりごとに口を挟み、常識知らずな連中が貴方を侮辱することを…勘違いで貴方を無能だと言う馬鹿な連中にどれだけ苛立ったか」

「勘違い?」

「長男でありながら貴方が跡継ぎにならなかったというのは間違いです」

間違いってどういう事だろうか?
姉上が優秀で俺が出来損ないなのは間違いはないのだけど。


「宮廷貴族と領地持ちの貴族では色々勝手が異なります。必ずしも男性が跡継ぎということにはならないのです。それを良くも知りもしないであの女は恥知らずな真似を」

扇が潰れる音が聞こえた。

細身で見た目は可憐な女性なのに、何処にそんな力があるんだろうか?


「辺境地に住まう貴族は必ずしも男性が跡継ぎになるわけではありませんし、跡継ぎに慣れなかったら無能と決めつけるとは何処まで愚かで浅はかなのか…あげくの果て、借金を背負い傾きかけた家を救った方を貶めるとは!」

「侯爵夫人!どうか落ち着いてください!」


「…失礼」

咳き込みをしながら冷静になってくださり安堵する。
怒りで魔力を暴走したら大変だしね。


「私はそれほど傷ついていません。彼女が私に対していい感情を抱いていないのは知ってました」

庇うわけじゃないが、強い男の方が良いと思うのは当然だ。
別に自分を卑下するわけじゃないし。


「それに私は薬草を採取したり、裏方をする方が向いています」

姉上の補佐をしながら、他の貴族の根回しや、書類作業も嫌いじゃなかった。
表立って動くよりも補佐に回る方が好きだったし。


「家族には申し訳ないのですが、今は好きな事が出来て幸せです」


搾取され続け、否定され続けたいた頃はしんどかった。
精神的にも苦痛を感じていたが、逃げ出すこともできなかったので諦めていた。


「今でも貴方をあざ笑い馬鹿にする者は多いでしょう…ですが、貴方が努力し続けた事を私は知っております。ですから、王都にいる以上、貴方をお守りますわ」


ん?

侯爵夫人の言葉に疑問を抱くも、侍女達がわらわら現れる。


「さぁ、準備に取り掛かるのです!」

「「「はい、奥様!」」

「えっ…ちょっと!」

強引に部屋に連れ込まれ、その後念入りに風呂で体を磨かれながら、生誕祭まで外出が叶わなかった。


そして、生誕祭当日。
俺はとんでもない体験をすることになるのだった。






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