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6.住人

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緑の館の庭園には立派な大樹がある。
その周りを囲み軽快なリズムを刻みながら踊る生き物がいた。


「おお、相変わらずだな」

サイズは野菜ぐらいの大きさで野菜の部分い髭の濃いおっさんの顔面がある。
勿論足もあって少しだけセクシーなんだけど、顔を見ればそんな気はない。


マンドラゴラと呼ばれる種族。
一応魔獣であるが、ずっとこの館の庭に巣くっているらしい。

俺が不在の時も、薬草や花達の手入れは彼等がしてくれていた。


おかげで、俺が不在の間も留守を守ってくれていた。


「さてと俺も部屋の掃除を…」



「ん?」

俺のズボンの裾を引っ張りながらジェスチャーをする。


「必要ない?」

彼等と一緒に部屋に入ると、何故か新品のように木造でできた机に、ベッドのシーツは新品になっていたし、窓際には俺好みの可愛い花が飾られ、大好きなあみぐるみも置いてある。


「可愛い…」


全部俺の大好きな物ばかりだ。

「これ、君達が?」

こくこくと頷くマンドラゴラ達は俺が帰って来るのを待っていてくれたのかもしれない。


そう思うと、婚約破棄をされて良かったかもしれない。
あのまま一生搾取され続けて、使い捨てにされるよりもずっと幸せだ。

家族に対する罪悪感はあるけど、せめてここで稼いで実家に仕送りをしよう。

お祖父様には許してもらえないかもしれないけど、こっそり姉上のブーケを送って幸せを祈りながら心穏やかに静かに暮らそう。


「その内大きな暖炉が欲しいな」


ポーッとなりながら未来予想図を描く。
ここに揺り椅子を置いて、冬は編み物をしたり、大きな犬を飼ったりして。


「夢のような暮らしだなぁー…」

想像を膨らませながら幸福に浸っていたが――。


「随分と枯れた夢じゃな」

「お前は本当に若者か」

「わしらよりも老けて居おるぞ」


不気味な笑い声と音もなく顔だけ現れる。


「婆さん…」

声を上げて驚きはしないけど、心臓に悪すぎる。

彼女達は老婆達グライアイ
人間ではなく魔女でもあり、優秀な薬師でもあり職人でもある。


一応俺のお師匠様でもあるが、少々お金にがめつく強欲な一面がある。

人間からは最凶の老婆姉妹とも呼ばれている。


ちなみにこの緑の館の常連さんでもある。

一応幼少期はお世話になったけど、この三人は厄介な性格をしていた。

何故なら――。

「相変わらず金がなさそうじゃな。どれ、お前の目玉を買い取ってやる」

「なら、ワシには生肝を寄こせ」

「そのタマ、売ってやる」

人間の体の一部を欲しがる傾向がある。
魔界のオークションでは人間の体の一部は高値で売れるとか。


「けっ…結構です」

「お前の目ん玉を対価に復讐してやるぞ?ついに婚約破棄をされたそうじゃな?」

「何もかも奪われて、本当に情けない男よのぉー、ワシがお前を娶ってやるぞ?いい加減ワシら物になれ」

「イーッヒッヒッ!」


強欲の塊だった。
その為、子供の頃から何度殺されそうになったか。

薬草の採取とか言いながら、底なし沼に突き飛ばされたり。

絶壁の崖の薬草を探して来いとか、猛獣の森でサバイバルを裸でして来いと言われたこともあった。


「良く、生きてこれたなぁー」

変だな?
目から汗がホロリと流れて来たぞ?


「おい、何をぼさっとしている!早く茶を淹れんか?ロイヤルミルクティーじゃ」

「美しいワシ等には薔薇の茶じゃ」

「ショコラを淹れろ」

三人そろって我儘め!と言いたいところだが、言えない自分が情けなくなりながらもせっせと給仕に努めるのだった。





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