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裁判は終わった。


あの女は再び拘束され連行されそうになる。


「待って!いやよ…私はあんな地に行きたくない!」

「暴れるな!」


未だに抵抗するあの女に呆れてしまう。
周りは視線を合わせないがフラッシュの音が聞こえ、記者達は写真を撮っていた。


ここで暴れれば、更に醜態を晒す行為となるのに。


「ちょっと似非弁護士!どういうことなの!大丈夫だって言ったじゃない!」


自身の所為で、チャンスを棒に振ったのに、他人のせいにしないと気が済まないのか。


「私は、最初に言いました。裁判の場では私の指示に従うようにと…せめて貴女の罪を軽減したかったのですが。ですが、刑務所にできるだけ留まれるようにしましょう」

「は?」

「刑務所はある意味犯罪者にとっては真綿ですから。命の保証も、食事もちゃんと出ます。ですが塀の外はいつ殺されれてもおかしくありません…貴女の精神病を前に出してもね?」

「そんな…」

「幸いにも通常よりも罪は軽いので…まぁ悪くないでしょう」


「どういうこと」


話しがかみ合っていない。
まさかあの女の弁護士は最初から裁判に勝つ気はなかったのか?


「伯爵様、彼は最初から勝利できないと思っていたのでしょう」

「そうなのか」

「弁護士の優先順位は依頼人の利益を最優先することです」

「ああ」


だが今回のあれは、利益を優先している事なのか?


「言いたくありませんが、サンディ・シンパシーがミレイちゃんの親権を得たいのはお金の為でしょう。金銭的にも困っている状況です…だからこそ被告側の弁護士は」

「精神的疾患があることを証明して、刑を軽減した後に少しでもお金を得る方法に出たのか」

それにしても、手に残るお金は微々たるものだ。




「貴女が食べていくだけは困らないように修道院に入れるように手回しをしたというのに」

「修道院ですって!馬鹿言わないでよ…私は元の暮らしに戻りたいのよ」


「馬鹿なのは貴女です。借金まみれでお金はない。周りからも信頼はないのに誰が貴女を雇いますか?娼婦にもなれないでしょう」


「貴族の妻に…」

「付加価値がありません」

「でもリサは!」


ここでリサを引き合いにされるのはとても不愉快だった。


しかし弁護士ははっきりと言った。


「器量もあり、周りからの信頼もあり、裕福な家のご息女です。すべてが違うのですよ」


「そんな…何とかして!」

「私にできることはありません。依頼料はご両親にお支払いいただきますので」


視線の先は蚊帳の外であるあの三人だった。


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