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⑥
しおりを挟む裁判官に厳しい目で見られても自分は被害者だと言わんばかりの態度の中、裁判は続行した。
「次の証人、前へ」
「はい。名をスコット・ガーナと申します」
こちら側の証人であるスコット先生。
「私は被告が元義妹に生まれて間もない娘の世話を押し付け、家族は夜まで帰らないことが度々ありました。日中は仕事をしている彼女は家事も一人で行い、真夜中まで赤ん坊の世話…そんな日々が続きました」
「その方は本日は?」
「精神的な病で未だに療養中です。彼女はそこにいる被告に子供ができないことを咎め、経験もないのに子供の世話を押し付けたのです…万一赤ん坊に何かあったらと不安を感じてました」
「傍には育児経験者は傍にいなかったのでしょうか?」
「はい、一人です。何事も勉強だと言って夜泣きも酷かったようです。その当時の記録もございます」
「記録ですって!」
「被告人は静粛に…証人、そちらを提出してください」
「はい」
当時のことを細かく記録していたが、証拠としては甘い。
「こちらは証拠としては甘いようですね…」
「裁判長、ここで、第三者に証言を要求します。あくまでいままではの発言は一方の主張です。公平さを持つために公的機関の者を呼んでおります」
「弁護人の主張を認めます」
「ありがとうございます」
ジャンは第三者として呼んだ人物に視線を送る。
「福祉保護協会のキリー・ウェンと申します」
「では、ウェンさん。第三者の貴女から見て被告は育児放棄をしていたかの有無を」
「はい、私は長年虐待を受けた子供の観察を任されていましたが、ミレイ・シンパシーは長期間の虐待と言うには不審な点が多くありました」
「フッ…」
あの女が不敵に微笑む。
自分は無実だと証明してもらえると笑っていたが、相手は第三者の機関だ。
感情移入などしない。
彼らは同情して発言を変えるような組織じゃない。
「私が感じた違和感は、サンディ・シンパシーが育児放棄をしたにしては体の傷が酷すぎます。報告では育児放棄と聞いておりますが暴力行為を受けている傷跡が多々あります」
「なっ…」
「どういうことだ!」
期待していただけで落胆が酷かったのだろうが、事実だ。
「こちらは私が過去に虐待を受けた子供の写真です」
裁判長に提出された写真は皆にも見えるように引き延ばされた。
「そしてもう一つはミレイ・シンパシーの傷跡です。このように痣が目立ちます」
似通う二つの写真が公に晒され、彼らは真っ青になる。
平等な判断をする保護協会の職員の言葉は説得力があったからだ。
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