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⑬
しおりを挟む私にお客と言われても誰かなんて想像できなかった。
ただ応接室に入ると、見るからに平民とは思えない紳士がいらした。
「お初にお目にかかります。私はティンファニー伯爵家の顧問弁護士のジャン・カスティーリャと申します」
「ティンファニー伯爵家…」
隣でライアスが絶句している。
驚くのも無理もないかもしれないわ。
だってティンファニー伯爵家といえば皇族の親族に当たるのだから。
「どうぞおかけください」
「はっ…はい」
「失礼します」
ジャン氏は穏やかな表情をしながらも目が笑っていない。
何を言われるのかしら?
「単刀直入に申し上げます。お二人の…というか息子さんの奥方は我が子を虐待しております。このままではご息女の命は危ないでしょう」
「えっ…」
「ミレイがですか…」
ジャン氏の言葉にぞっとする。
まさか手を出しているなんて!
「これまで何度もある方が公的機関に依頼をしました…ですが、彼らも保護をしたくてもできない。何故なら注意をして終わりなのです。虐待をした物的証拠を提示するのは難しいからです」
「ある方?」
「ええ、サンディ・シンパシーの弟君の別れた奥方のご両親です」
「え…」
何故、赤の他人である彼らが?
「元妻であるリサさんは、シンパシー家と縁を切った後もミレイさんを心配していましてね。ご両親も赤ん坊に罪はないと…なんとかして助けようとされたのですが」
なんてことなの。
自分の娘を貶めた女の娘かもしれないのに。
リサさんの人柄はご両親に似たのね。
「事態は緊急を要します。こちらを」
「はい」
受け取った手紙にはリサさんがミレイを救いたい思いが書き記されていた。
自分の無力さを嘆きながらずっと苦しんでいたことも痛いほど解ったわ。
「母さん、僕はなんてことを」
「悔やむのは後にしなさい」
そう、今は悔やむ時ではない。
「急いでシンパシー家に向かわなくては」
「そうだね」
「話が早くて助かります。ですがいきなり行くのではなく、私の計画に乗っていただけますか?上手くいけばお嬢さんを取り返すことができます」
ジャン氏にあらかじめ計画した筋書きを教えられ私達はシンパシー家に向かうことになった。
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