上 下
104 / 121

しおりを挟む





私にお客と言われても誰かなんて想像できなかった。

ただ応接室に入ると、見るからに平民とは思えない紳士がいらした。


「お初にお目にかかります。私はティンファニー伯爵家の顧問弁護士のジャン・カスティーリャと申します」

「ティンファニー伯爵家…」

隣でライアスが絶句している。
驚くのも無理もないかもしれないわ。

だってティンファニー伯爵家といえば皇族の親族に当たるのだから。


「どうぞおかけください」

「はっ…はい」

「失礼します」

ジャン氏は穏やかな表情をしながらも目が笑っていない。
何を言われるのかしら?

「単刀直入に申し上げます。お二人の…というか息子さんの奥方は我が子を虐待しております。このままではご息女の命は危ないでしょう」

「えっ…」

「ミレイがですか…」


ジャン氏の言葉にぞっとする。
まさか手を出しているなんて!


「これまで何度もある方が公的機関に依頼をしました…ですが、彼らも保護をしたくてもできない。何故なら注意をして終わりなのです。虐待をした物的証拠を提示するのは難しいからです」

「ある方?」

「ええ、サンディ・シンパシーの弟君の別れた奥方のご両親です」

「え…」


何故、赤の他人である彼らが?


「元妻であるリサさんは、シンパシー家と縁を切った後もミレイさんを心配していましてね。ご両親も赤ん坊に罪はないと…なんとかして助けようとされたのですが」


なんてことなの。
自分の娘を貶めた女の娘かもしれないのに。

リサさんの人柄はご両親に似たのね。


「事態は緊急を要します。こちらを」

「はい」


受け取った手紙にはリサさんがミレイを救いたい思いが書き記されていた。
自分の無力さを嘆きながらずっと苦しんでいたことも痛いほど解ったわ。


「母さん、僕はなんてことを」

「悔やむのは後にしなさい」


そう、今は悔やむ時ではない。

「急いでシンパシー家に向かわなくては」

「そうだね」

「話が早くて助かります。ですがいきなり行くのではなく、私の計画に乗っていただけますか?上手くいけばお嬢さんを取り返すことができます」


ジャン氏にあらかじめ計画した筋書きを教えられ私達はシンパシー家に向かうことになった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

【完結】何も知らなかった馬鹿な私でしたが、私を溺愛するお父様とお兄様が激怒し制裁してくれました!

山葵
恋愛
お茶会に出れば、噂の的になっていた。 居心地が悪い雰囲気の中、噂話が本当なのか聞いてきたコスナ伯爵夫人。 その噂話とは!?

魅了の魔法をかけられていたせいで、あの日わたくしを捨ててしまった? ……嘘を吐くのはやめていただけますか?

柚木ゆず
恋愛
「クリスチアーヌ。お前との婚約は解消する」  今から1年前。侯爵令息ブノアは自身の心変わりにより、ラヴィラット伯爵令嬢クリスチアーヌとの関係を一方的に絶ちました。  しかしながらやがて新しい恋人ナタリーに飽きてしまい、ブノアは再びクリスチアーヌを婚約者にしたいと思い始めます。とはいえあのような形で別れたため、当時のような相思相愛には戻れません。  でも、クリスチアーヌが一番だと気が付いたからどうしても相思相愛になりたい。  そこでブノアは父ステファンと共に策を練り、他国に存在していた魔法・魅了によってナタリーに操られていたのだと説明します。 ((クリスチアーヌはかつて俺を深く愛していて、そんな俺が自分の意思ではなかったと言っているんだ。間違いなく関係を戻せる))  ラヴィラット邸を訪ねたブノアはほくそ笑みますが、残念ながら彼の思い通りになることはありません。  ――魅了されてしまっていた――  そんな嘘を吐いたことで、ブノアの未来は最悪なものへと変わってゆくのでした――。

【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
 もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。  誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。 でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。 「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」  アリシアは夫の愛を疑う。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【完結】ちょっと待ってくれー!!彼女は俺の婚約者だ

山葵
恋愛
「まったくお前はいつも小言ばかり…男の俺を立てる事を知らないのか?俺がミスしそうなら黙ってフォローするのが婚約者のお前の務めだろう!?伯爵令嬢ごときが次期公爵の俺に嫁げるんだぞ!?ああーもう良い、お前との婚約は解消だ!」 「婚約破棄という事で宜しいですか?承りました」 学園の食堂で俺は婚約者シャロン・リバンナに婚約を解消すると言った。 シャロンは、困り俺に許しを請うだろうと思っての発言だった。 まさか了承するなんて…!!

処理中です...