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先帝陛下の噂は様々だ。
参謀としても優秀だけど、軍神としても素晴らしいと。


「昔はよく狩りに出て食したものよ」


「狩りに…」

「領地が貧しかったからな。明日どころか今日食べるパンもなかったからな」


先帝陛下のご実家が裕福ではないのは知っていた。
当時は赤字で特に災害が多い領地では食糧不足だったと聞いているけど。

そこまでとは。


「海には魔物がおおかったからのぉ?ならば魔物を食せればと思ったんだが」

「当時そんな冒険をしたのは伯父上ぐらいです」

「そうか?だが実に美味だった。おかげで長生きしたぞ。バジリスクも美味だったが」

「そんなものまで」


ダンジョンに生息する魔物を捕獲して調理したなんて。


「だが皆食するのを嫌がるのだ。先日も晩餐会でクロコダイルの丸焼きを提供したんだが」

「姿がグロすぎるのです。それに肉も堅いですから」


「宮廷貴族は柔らかいものばかり食べているから軟弱なのですわ。将来堅いものが食べられなくなりますわね。ちなみに私はちゃんと食べましたわ」


「マリー、頼むから侯爵家ではやめておくれ」


お嬢様の精神の強さはむしろ魔物を食べたからなのかしら?
でも伯爵家ではそんな肉は出なかったけど。



「しかし中々気骨のあるお嬢さんじゃ。他の嫁候補はまずバーベキューを見せたら即逃げるからな」

「普通、貴族の令嬢は受け付けませんよ」

「軟弱なんですわ。大伯父様、先生はご実家が商家ですが、質素倹約でお母様は針子でありながらお料理もされるそうですわ!」

「質素倹約…それは素晴らしい。金の使い道を解っていない貴族令嬢は受け付けんからな」


「恐れ入ります」



一部では相当のドケチだと言われていたけど。
倹約家だっただけなのね。



「お嬢さん、ヨハネスはあの通り少し頼りない男だ。だが私の大事な甥で優しい男だ。どうか頼んだぞ」

「はっ…はい」


でも、それ以上に温かみのある人だった。


噂は飛躍しているし。
少しばかりハチャメチャなところはあるけど私はこの方が好きになった。



「さぁ、歓迎会の仕切り直しだ!」

「はい?」


先帝陛下は何所からか巨大な法螺貝を取り出す。


「先生耳を」

「え?」


耳栓を渡されると、地面が揺れ、ものすごい音が聞こえた。



「これは…」


「伯父上の直属の部下が合図で来るようになっている。ちなみに伯父上は大の貝好きだ」


海岸沿いで生まれたからなのか。
昔から海で遊ぶのが習慣になっているのかしら。


でも先帝陛下の直属の部下ってどんな人なのかしら?



やっぱり元近衛騎士?
元貴族様だったりするのかと想像していた私は馬鹿だった。


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