上 下
86 / 169

しおりを挟む

庭園で一人の老人がバーベキューで海産物を焼いている。


どこぞのご老人がバーベキューをしている。
服装は本当にシンプルで、お世辞にも商人や貴族に見えない。


そう、いうなれば農民の装いだ。



ここは皇族の別邸のはず。
なのに、庭園というよりも畑が広がっている。


主に野菜尽くし。


「ここは…」


「伯父上の別邸だ」


「あの…庭に菜園が」

「伯父上の趣味だ」


「はぁ…」


馬車は、門を通り抜けた後に止められる。
ここからは歩きだと言われるも、歩いても歩いても邸の出入り口が見えない。


そんな中、香ばしい香りがする。


「これは…誰かが魚を焼いているのかしら」

「叔父様」

「言うな。誰かなんて言うまでもない!」


死んだ魚のような表情をする旦那様と遠くを見つめるお嬢様。


そんな中、トングを片手にこちらに向かってくる男性。


麦わら帽子を被っている。
しかも長靴を履いて、バーベキューには不向きだった。



「よく来たね」


にこにこと人のよさそうな笑みを浮かべる男性に私は首をかしげる。


けれど老人は気にすることもなく私に話しかける。


「ちょうどよい具合に魚が焼けたところじゃ。どうじゃ?」

「へ?」

「うまいぞ」


いきなり魚を差し出されてしまう。
いいのかしら?


ここは先帝陛下の別邸。
マナー違反ではないかと思ったが。


「それとも私の焼いた魚が食えんか?」

「いえ…ですが、ここで食べてよいのか」

「かまわん。私が許す」


「はぁ…」

断れずその場で立ち食いをしてしまった私だが…


「まぁ!美味しい」

「ほぉ?なかなか味の解るお嬢さんじゃな」

行儀悪いと言われるかもしれないけどこうやって食べたほうがおいしいこともある。


でも本当にどなたなのかしら?


「ほれ酒を飲め」

「はぁ…」

断るにもまたしても訴えられる。


「私の酒が飲めぬのか?」

なんていわれたら断りにくい。


でも、久しくこういうのもいいなと思ってしまった私はかなりリラックスしていたのだが。


「伯父上!」

「えっ…」

背後で旦那様が真っ青になって声を荒げる。


「何だヨハネス。お前も欲しいのか」

「そうではなく…」


「お嬢さんこちらも食べるといい」


既に味なんて忘れてしまった。

まさか目の前でバーベキューをしているお爺さんが先帝陛下だったなんて誰が思うだろうか。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

王妃の手習い

桃井すもも
恋愛
オフィーリアは王太子の婚約者候補である。しかしそれは、国内貴族の勢力バランスを鑑みて、解消が前提の予定調和のものであった。 真の婚約者は既に内定している。 近い将来、オフィーリアは候補から外される。 ❇妄想の産物につき史実と100%異なります。 ❇知らない事は書けないをモットーに完結まで頑張ります。 ❇妄想スイマーと共に遠泳下さる方にお楽しみ頂けますと泳ぎ甲斐があります。

悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい

たなぱ
BL
生前、社畜だったおれの部屋に入り浸り、男のおれに乙女ゲームの素晴らしさを延々と語り、仮眠をしたいおれに見せ続けてきた妹がいた 人間、毎日毎日見せられたら嫌でも内容もキャラクターも覚えるんだよ そう、例えば…今、おれの目の前にいる赤い髪の美少女…この子がこのゲームの悪役令嬢となる存在…その幼少期の姿だ そしておれは…文字としてチラッと出た悪役令嬢の行いの果に一家諸共断罪された兄 ナレーションに 『悪役令嬢の兄もまた死に絶えました』 その一言で説明を片付けられ、それしか登場しない存在…そんな悪役令嬢の兄に転生してしまったのだ 社畜に優しくない転生先でおれはどう生きていくのだろう 腹黒?攻略対象×悪役令嬢の兄 暫くはほのぼのします 最終的には固定カプになります

あなたが1から始める2度目の恋

cyaru
恋愛
エスラト男爵家のシェイナは自分の部屋の扉をあけて硬直した。 そこには幼馴染で家の隣に住んでいるビヴァリーと許嫁のチャールズが今まさに!の瞬間があった。 「ごゆっくり」 混乱したシェイナは扉を閉じ庭に飛び出した。 チャールズの事は家が婚約という約束を結ぶ前から大好きで婚約者となってからは毎日が夢のよう。「夫婦になるんだから」と遠慮は止めようと言ったチャールズ。 喧嘩もしたが、仲良く近い将来をお互いが見据えていたはずだった。 おまけにビヴァリーには見目麗しく誰もがうらやむ婚約者がいる。 「寄りにも寄ってどうして私の部屋なの?!」気持ちが落ち着いて来たシェイナはあり得ない光景を思い出すとチャールズへの恋心など何処かに吹っ飛んでしまい段々と腹が立ってきた。 同時に母親の叫び声が聞こえる。2人があられもない姿で見つかったのだ。 問い詰められたチャールズはとんでもないことを言い出した。 「シェイナに頼まれたんだ」と‥‥。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★4月6日投稿開始、完結は4月7日22時22分<(_ _)> ★過去にやらかしたあのキャラが?!ヒーロー?噛ませ犬? ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

奪われる人生とはお別れします ~婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました~

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ◯完結まで毎週金曜日更新します ※他サイト様でも連載中です。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 本当にありがとうございます!

【完結】あなただけが特別ではない

仲村 嘉高
恋愛
お飾りの王妃が自室の窓から飛び降りた。 目覚めたら、死を選んだ原因の王子と初めて会ったお茶会の日だった。 王子との婚約を回避しようと頑張るが、なぜか周りの様子が前回と違い……?

気がついたら無理!絶対にいや!

朝山みどり
恋愛
アリスは子供の頃からしっかりしていた。そのせいか、なぜか利用され、便利に使われてしまう。 そして嵐のとき置き去りにされてしまった。助けてくれた彼に大切にされたアリスは甘えることを知った。そして甘えられることも・・・ やがてアリスは自分は上に立つ能力があると自覚する

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

処理中です...