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73お節介

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シンパシー家の悪い噂を耳にするようになり、私は唯一の心残りがあった。


ミレイだった。
まだ赤ちゃんのあの子はこれからだ丈夫だろうか。


ふと、町で子連れの親子を見るたびにあの子を思いだしては胸が締め付けられた。


ミレイは大丈夫か。
お腹をすかせていないか、心細い思いをしていないか。


私は子供を産んだわけじゃない。
だから比較対象はできないけどミレイはお嬢様と同じく少し偏食がある。


ミルクだって餌付いて飲みにくいし、市販で売っている赤ちゃん用に食事も口にできない。
だからこそ私は思考錯誤をして飲み物も考えたのだから。


あの家に置いてきた手帳は呼んでくれたかしら。
ミレイのおむつを交換する時間もお昼寝の時間もちゃんと書いておいた。

おむつだって紙おむつだと嫌がるので工夫が必要だ。
肌にはちゃんと薬草を塗り、かぶれをふさいだりと手間がかかる。

ミルクを上げる時もちゃんとゆっくり背中をなでながらじゃないと飲んでくれないし、一度拒否されたら飲もうとしない。



「ミレイ…」



手帳にわかりやすく書いたけど、読んでくれているか解からないし。
サンディ様からすれば他人に指図をされたくないだろうから読んでもらえないかもしれない。

けれど…


「たまらなく心配だわ」


「リサ、どうしたんだい」


「旦那様」


名前を呼ばれて我に返る。


「もうすぐ到着だ」

「はい…」


現在首都に到着し、先帝陛下の別邸に向かう途中だったのに私はなんてことを。


「悩み事か」

「はい、ミレイのことが心配で」

「先生…」


今から大事な謁見だというのに、私はなんて馬鹿なことを。


「先生、何度も申しますが」

「お嬢様、私は縁が切れても一時この手でお世話をした幼い子供を忘れるなどできません」


今頃泣いていないだろうか。
母親でもないのにそんなことばかり思っている。


「先生は母性の塊ですものね」

「マリー、言い方があるだろう」

「だってそうではありませんか。他人でありながらここまで愛情を持ってますのよ?この世に我が子に愛情を持てない子がどれだけいますの?社交界で私は何度も見ましたわ」


「それは…」

「私と叔父様は実の親子よりも仲睦まじくて羨ましいとまで言われましたのよ」



血がつながっていても家族関係が良いとは言えない。
逆を言えば養子縁組した子供を我が子のように大事にする方もいる。


旦那様とお嬢様は叔父と姪の関係ながらも貴族とは思えないほど距離感が近い。
実の親子以上に仲睦まじいわ。



「お二人のような親子ならどれだけ幸せなのでしょうか」

「あら?先生が叔父様との間に子供ができれば似たようなものではなくて?叔父様、私は妹が欲しいのですわ。ですから可愛い従妹をお願いします。でも弟もいいですわね」

「なっ…」

「両方お願いします」


「お嬢様!」


容赦のない言葉に私は真っ赤になる。
まだ挙式も上げていないのに気の早すぎることだわ。



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