55 / 169
55
しおりを挟む再婚の手続きが大方終わった後に残る問題は財産分与と慰謝料と二つの邸だった。
「本来ならあの邸の権利はリサにあるのだけど」
「取り戻したいとは思いませんわ」
元義両親と同居した三年間。
辛いことが多く一人で眠ったベッド。
生活感はほとんどなかった。
「ならば、買い取ってもらうしかない。後は…」
「同居前に住んでいた邸ですね。あちらはまだ残っていますが、土地、建物の所有権は半々です」
ただ、三年間人が住んでいない中、手入れをしたのは私だし。
ロンドは放置しているのだけど。
「ならば処分する方向で話を持っていけばいい」
「はい、私の私物だけを持ち出しても?」
「ああ」
話はとんとん拍子に進むも、業者に頼む込んだ方が安全と言われ従うことにした。
あの町には一度も戻っていない。
手紙で一度スコット先生で状況を聞いたけど、私が出て行った後も彼らは離縁に納得していないようだ。
里帰りということにしているらしい。
「しばらくあの場所にはいかない方がいい。ご両親にも護衛をつける」
「え?」
「君は伯爵家にいるからまず手を出すことは難しい。門前払いをされるだろうからね」
「はい」
そもそも平民である彼らが貴族のお邸に約束もなく訪問すること自体が間違いなのだけど。
「君との交渉を持ちかける為にご両親に接触するだろう」
「可能性があります」
「だが、君のご両親も毅然と振舞うだろうが…追い込まれた人間は恐ろしい事をするだろう。元よりあの家族は常識がない」
自分の要求をのませるために理不尽な言葉を並べて己の我を通そうとするのは安易に想像できた。
「だからこそ、護衛をつける。子爵夫人にも連絡しておく」
「ありがとうございます」
「夫婦になるんだ。遠慮することはない…君はなんでも我慢し過ぎだ」
私の手を優しく握りながら安心させてくれた。
我慢し過ぎか…
あの邸では我慢をしろとばかり言われていたのに。
「我儘を言って欲しい。妻の我儘を聞くのは夫の特権だろう」
「もう言ってますわ」
「我がままに入らないよ。マリーの我儘に比べれば」
遠い目をする旦那様。
そのタイミングで足音が聞こえる。
「少し嫌な予感がする」
普段は静かに歩くお嬢様がけたたましい足音を立てた。
「叔父様!暗殺者を雇ってくださいませ!」
乱暴に扉を開けられたと思えば物騒な言葉に笑顔が引きつる。
隣で旦那様の目が虚ろだったのは気のせいではない。
2,713
お気に入りに追加
5,211
あなたにおすすめの小説
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)
離婚したらどうなるのか理解していない夫に、笑顔で離婚を告げました。
Mayoi
恋愛
実家の財政事情が悪化したことでマティルダは夫のクレイグに相談を持ち掛けた。
ところがクレイグは過剰に反応し、利用価値がなくなったからと離婚すると言い出した。
なぜ財政事情が悪化していたのか、マティルダの実家を失うことが何を意味するのか、クレイグは何も知らなかった。
[完]僕の前から、君が消えた
小葉石
恋愛
『あなたの残りの時間、全てください』
余命宣告を受けた僕に殊勝にもそんな事を言っていた彼女が突然消えた…それは事故で一瞬で終わってしまったと後から聞いた。
残りの人生彼女とはどう向き合おうかと、悩みに悩んでいた僕にとっては彼女が消えた事実さえ上手く処理出来ないでいる。
そんな彼女が、僕を迎えにくるなんて……
*ホラーではありません。現代が舞台ですが、ファンタジー色強めだと思います。
婚約破棄ですか? では、この家から出て行ってください
八代奏多
恋愛
伯爵令嬢で次期伯爵になることが決まっているイルシア・グレイヴは、自らが主催したパーティーで婚約破棄を告げられてしまった。
元、婚約者の子爵令息アドルフハークスはイルシアの行動を責め、しまいには家から出て行けと言うが……。
出ていくのは、貴方の方ですわよ?
※カクヨム様でも公開しております。
自分勝手な側妃を見習えとおっしゃったのですから、わたくしの望む未来を手にすると決めました。
Mayoi
恋愛
国王キングズリーの寵愛を受ける側妃メラニー。
二人から見下される正妃クローディア。
正妃として国王に苦言を呈すれば嫉妬だと言われ、逆に側妃を見習うように言わる始末。
国王であるキングズリーがそう言ったのだからクローディアも決心する。
クローディアは自らの望む未来を手にすべく、密かに手を回す。
そんなに優しいメイドが恋しいなら、どうぞ彼女の元に行ってください。私は、弟達と幸せに暮らしますので。
木山楽斗
恋愛
アルムナ・メルスードは、レバデイン王国に暮らす公爵令嬢である。
彼女は、王国の第三王子であるスルーガと婚約していた。しかし、彼は自身に仕えているメイドに思いを寄せていた。
スルーガは、ことあるごとにメイドと比較して、アルムナを罵倒してくる。そんな日々に耐えられなくなったアルムナは、彼と婚約破棄することにした。
婚約破棄したアルムナは、義弟達の誰かと婚約することになった。新しい婚約者が見つからなかったため、身内と結ばれることになったのである。
父親の計らいで、選択権はアルムナに与えられた。こうして、アルムナは弟の内誰と婚約するか、悩むことになるのだった。
※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる