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人を好きになるには理由はない。
でも嫌いになるには理由があると聞いた事がある。


お嬢様は理由なしに他人を嫌ったりしない。
ただ厳しい態度をとったりするけど、情の深い方だ。


「今ギルドにあの屑男を監視させていますの」

「マリー、お前はまた!」


「叔父様も似たようなことしましたでしょ?町の住人にあれをしましたでしょ?」

「何で知っているんだ!」

あれって何かしら?
二人は実の親子よりも解り合っていると思う時がある。


「あー…あれはだな」

「悪い人」

「それは!」

「ですが、これまでが手ぬるかったので及第点を差し上げますわ」

「くっ!」


社交界ではやり手とされる旦那様だけど、姪に対して頭が上がらないなんて誰が思うだろうか。


ある意味一番強いのは幼いお嬢様かもしれない。
将来皇室も牛耳ってしまうかもしれない。



「でも最後の最後が手ぬるいですわね?もう少し強引に先生を口説くべきですわ。キスぐらいなさいませ!」

「今度はどんなジャンルに手を出したんだ!」

「略奪愛の定義シリーズですわ」

「だから何でそんな内容の本を読むんだ!」


今度は略奪愛物語を熟読しているなんて!
私は本気で頭が痛くなった。


「時には強引に口説くのも必要ですわ。本当に手ぬるいこと」

「もう止めなさい」


「じゃあ他の男に先生が奪われても屑男の時のように諦めますの?」


「お嬢様、もう…」

勘弁してくださいと言おうとしたが。



「私の気持ちよりもリサの気持ちだ!相手の気持ちを無視した行為は愛じゃない…自己愛でしかない」

「旦那様…」

「私はリサを愛している。できるなら妻になって欲しい…だが私はリサが幸福になるならそれでもいい!たとえ馬鹿だと言われても愛する人が不幸になるよりもずっといい」



頬が熱かった。
胸がとっても苦しくなる。


顔を上げられない。
絶対に真っ赤だったし、旦那様の顔を見れない。



「それだけ好きで好きで仕方ないならご自分が幸せにしてやると言えばいいでしょう」

「幸せは誰かに与えてもらうんじゃない。自分でなるんだ‥」


ああ、そっか。
旦那様はそういう方だった。


昔からずっと。



人の気持ちに寄り添える方で、誰よりもお優しい方だった。



貴族だろうと平民だろうと関係なく、接してくださった優しい旦那様。
その優しさが時に旦那様を苦しめることがあるけど、貫かれていた。


幼い頃からそんな旦那様を尊敬していたのだから。



「旦那様…私は嬉しいです」

「リサ」


この感情は恋ではない。


敬愛かもしれない。


でも、こんな私を好いてくださるなら嬉しいと思った。

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