上 下
51 / 169

51

しおりを挟む




いつの間にか二人の姿はなかった。


こういう時だけ静かにいなくなるんだから!


「リサ、すぐにとは言わない。私の事が嫌いでないなら考えて欲しい」

「嫌いだなんて」


旦那様を嫌いだなんて思うはずがない。

「私が君を勝手に好きになっただけだ。だから私に悪いと思ったり罪悪感で受け入れようとは思わないで欲しい」

「旦那様…」

「君を困らせると解って言っているんだから」


どうしてこの方はそういつもご自分を悪く思うのかしら。
何一つとして悪い事をしていないのに。


「ただ、私の気持ちが受け入れられないとしても…迷惑に思わないで欲しい。君が私を好きになれないならそれでもいい。ただ君を愛することを許して欲しい」

こんなことを言われて断れない。
殿方にここまで思わるなんて女冥利に尽きるというものだけど。

でも、解らない。


旦那様に好かれる理由がない。

だから――。


「回りくどいですわね叔父様」


「なっ…マリー!」

「ずるずる引きずってヘタレの極みだわ。どうせ断られても先生を諦められないのですから。このままだと本当に先生をどこぞの貴族に奪われますわ」

「なっ!」

「お嬢様…」

音もなく現れるなんて、新たなスキルを手に入れたのね!


「盗み聞きとは」

「窓が全開で開いてましたの。嫌でも聞こえますわ」

「は?」

「使用人全員は聞いていられないと困ってましたわ」



今の告白を聞かれていた?
恥ずかし過ぎるわ!


「先生、女は愛された方が幸せですわ」

「はっ…はい」

「私の父もお母様にぞっこんだったそうです。叔父様のように何度もフラれてもしつこくアプローチしたそうですわ」

「マリー!また日記を読んだのか」


「好学の為ですわ」

しれっとするお嬢様の表情に何とも言えない気持ちになる。
どんどん女性の経験値を上げていく一方で、本当に子供なのか疑いを持ってしまう。


「先生、別に嫌いでなければ問題ありませんわ。結婚後先生をふりむかせられるかは叔父様次第ですが、悪い生活ではないと思いますの」

「マリー!」

「黙っててくださいませ」

こういう時のお嬢様は誰にも止めることができない。


「叔父様がちんたらしている間に私大伯父様にこの度の事をお話ししましたの」

「何だって!」

「先生の境遇を不憫に思われまして…もし新たな縁談がないなら大伯父様が見合いをセッティングするともおっしゃってくださいましたの」

「ななななっ…何をしているんだ!」

お嬢様、そんなことを!

無茶ぶりが酷すぎるわ。


「だって、このままでは世間の笑いものにされてしまいますわ。暴力夫と離縁したとしても馬鹿にする連中が何をするか…もしくはあの屑男があることない事言いふらすに決まってます」


ロンドに対しての嫌悪感が酷くなる一方のようだ。
名前を出せばすごい顔で睨まれてしまうし、時々剣術のおけいこの最中にロンドの写真を張り付けた人形を串刺しにしているほどだった。


「あの男は先生を悪者にするはずですわ!」

かもしれないじゃなくて決定のような言い回しをするほど憎んでいる。


ロンドはお嬢様に何をしたのかしら。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

10年前にわたしを陥れた元家族が、わたしだと気付かずに泣き付いてきました

柚木ゆず
恋愛
 今から10年前――わたしが12歳の頃、子爵令嬢のルナだった頃のことです。わたしは双子の姉イヴェットが犯した罪を背負わされ、ルナの名を捨てて隣国にある農園で第二の人生を送ることになりました。  わたしを迎え入れてくれた農園の人達は、優しく温かい人ばかり。わたしは新しい家族や大切な人に囲まれて10年間を楽しく過ごし、現在は副園長として充実した毎日を送っていました。  ですが――。そんなわたしの前に突然、かつて父、母、双子の姉だった人が現れたのです。 「「「お願い致します! どうか、こちらで働かせてください!」」」  元家族たちはわたしに気付いておらず、やけに必死になって『住み込みで働かせて欲しい』と言っています。  貴族だった人達が護衛もつけずに、隣の国でこんなことをしているだなんて。  なにがあったのでしょうか……?

【本編完結済】この想いに終止符を…

春野オカリナ
恋愛
 長年の婚約を解消されたシェリーネは、新しい婚約者の家に移った。  それは苦い恋愛を経験した後の糖度の高い甘い政略的なもの。  新しい婚約者ジュリアスはシェリーネを甘やかすのに慣れていた。  シェリーネの元婚約者セザールは、異母妹ロゼリナと婚約する。    シェリーネは政略、ロゼリアは恋愛…。  極端な二人の婚約は予想外な結果を生み出す事になる。

そんなに優しいメイドが恋しいなら、どうぞ彼女の元に行ってください。私は、弟達と幸せに暮らしますので。

木山楽斗
恋愛
アルムナ・メルスードは、レバデイン王国に暮らす公爵令嬢である。 彼女は、王国の第三王子であるスルーガと婚約していた。しかし、彼は自身に仕えているメイドに思いを寄せていた。 スルーガは、ことあるごとにメイドと比較して、アルムナを罵倒してくる。そんな日々に耐えられなくなったアルムナは、彼と婚約破棄することにした。 婚約破棄したアルムナは、義弟達の誰かと婚約することになった。新しい婚約者が見つからなかったため、身内と結ばれることになったのである。 父親の計らいで、選択権はアルムナに与えられた。こうして、アルムナは弟の内誰と婚約するか、悩むことになるのだった。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

【完結】私がいる意味はあるのかな? ~三姉妹の中で本当にハズレなのは私~

紺青
恋愛
私、リリアンはスコールズ伯爵家の末っ子。美しく優秀な一番上の姉、優しくて賢い二番目の姉の次に生まれた。お姉さま二人はとっても優秀なのに、私はお母さまのお腹に賢さを置いて来てしまったのか、脳みそは空っぽだってお母様さまにいつも言われている。あなたの良さは可愛いその外見だけねって。  できる事とできない事の凸凹が大きい故に生きづらさを感じて、悩みながらも、無邪気に力強く成長していく少女の成長と恋の物語。 ☆「私はいてもいなくても同じなのですね」のスピンオフ。ヒロインのマルティナの妹のリリアンのお話です。このお話だけでもわかるようになっています。 ☆なろうに掲載している「私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~」の本編、番外編をもとに加筆、修正したものです。 ☆一章にヒーローは登場しますが恋愛成分はゼロです。主に幼少期のリリアンの成長記。恋愛は二章からです。 ※児童虐待表現(暴力、性的)がガッツリではないけど、ありますので苦手な方はお気をつけください。 ※ざまぁ成分は少な目。因果応報程度です。

わたし、何度も忠告しましたよね?

柚木ゆず
恋愛
 ザユテイワ侯爵令嬢ミシェル様と、その取り巻きのおふたりへ。わたしはこれまで何をされてもやり返すことはなく、その代わりに何度も苦言を呈してきましたよね?  ……残念です。  貴方がたに優しくする時間は、もうお仕舞です。  ※申し訳ございません。体調不良によりお返事をできる余裕がなくなっておりまして、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じさせていただきます。

処理中です...