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しおりを挟むいつの間にか二人の姿はなかった。
こういう時だけ静かにいなくなるんだから!
「リサ、すぐにとは言わない。私の事が嫌いでないなら考えて欲しい」
「嫌いだなんて」
旦那様を嫌いだなんて思うはずがない。
「私が君を勝手に好きになっただけだ。だから私に悪いと思ったり罪悪感で受け入れようとは思わないで欲しい」
「旦那様…」
「君を困らせると解って言っているんだから」
どうしてこの方はそういつもご自分を悪く思うのかしら。
何一つとして悪い事をしていないのに。
「ただ、私の気持ちが受け入れられないとしても…迷惑に思わないで欲しい。君が私を好きになれないならそれでもいい。ただ君を愛することを許して欲しい」
こんなことを言われて断れない。
殿方にここまで思わるなんて女冥利に尽きるというものだけど。
でも、解らない。
旦那様に好かれる理由がない。
だから――。
「回りくどいですわね叔父様」
「なっ…マリー!」
「ずるずる引きずってヘタレの極みだわ。どうせ断られても先生を諦められないのですから。このままだと本当に先生をどこぞの貴族に奪われますわ」
「なっ!」
「お嬢様…」
音もなく現れるなんて、新たなスキルを手に入れたのね!
「盗み聞きとは」
「窓が全開で開いてましたの。嫌でも聞こえますわ」
「は?」
「使用人全員は聞いていられないと困ってましたわ」
今の告白を聞かれていた?
恥ずかし過ぎるわ!
「先生、女は愛された方が幸せですわ」
「はっ…はい」
「私の父もお母様にぞっこんだったそうです。叔父様のように何度もフラれてもしつこくアプローチしたそうですわ」
「マリー!また日記を読んだのか」
「好学の為ですわ」
しれっとするお嬢様の表情に何とも言えない気持ちになる。
どんどん女性の経験値を上げていく一方で、本当に子供なのか疑いを持ってしまう。
「先生、別に嫌いでなければ問題ありませんわ。結婚後先生をふりむかせられるかは叔父様次第ですが、悪い生活ではないと思いますの」
「マリー!」
「黙っててくださいませ」
こういう時のお嬢様は誰にも止めることができない。
「叔父様がちんたらしている間に私大伯父様にこの度の事をお話ししましたの」
「何だって!」
「先生の境遇を不憫に思われまして…もし新たな縁談がないなら大伯父様が見合いをセッティングするともおっしゃってくださいましたの」
「ななななっ…何をしているんだ!」
お嬢様、そんなことを!
無茶ぶりが酷すぎるわ。
「だって、このままでは世間の笑いものにされてしまいますわ。暴力夫と離縁したとしても馬鹿にする連中が何をするか…もしくはあの屑男があることない事言いふらすに決まってます」
ロンドに対しての嫌悪感が酷くなる一方のようだ。
名前を出せばすごい顔で睨まれてしまうし、時々剣術のおけいこの最中にロンドの写真を張り付けた人形を串刺しにしているほどだった。
「あの男は先生を悪者にするはずですわ!」
かもしれないじゃなくて決定のような言い回しをするほど憎んでいる。
ロンドはお嬢様に何をしたのかしら。
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