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しおりを挟む翌日、まだ早い時間に帰った。
伯爵家から馬車を用意すると言われたけど、丁重にお断りしたのだが、せめて馬車を手配すると言われたのでお言葉に甘えることにした。
「先生、本当に大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
「せめてこれをお守りに持って行ってくださいな」
「あら?」
差し出されたのはお嬢様のお気に入りのテディベアだ。
「私の代わりですわ」
「とっても心強いですわ」
「お邸ではできるだけ先生の傍においてあげてくださいね」
「解りました」
気が強く、敵に容赦のないお嬢様だけど、本当は可愛い方なのよね。
今でもベッドの枕元にはお気に入りのテディベアを抱きしめて眠るぐらいだもの。
「リサ先生、そろそろ」
「はい」
旦那様に声をかけられ私はそのまま馬車の元に向かった。
「リサ」
「旦那様!」
馬車に乗ろうとした時、強く腕を引かれた。
「すまない」
「あの…旦那様」
「リサ」
私の事をリサと呼ぶのはいつ以来だろうか。
成人して、伯爵家に家庭教師として採用されてからは親し気に呼ぶことはなかった。
旦那様は雇い主にすぎない。
私の縁談が決まってからは余計に距離を作られた。
でも、それは配慮だった。
もう子供ではないのだから、私はもう大人。
人妻になった私と変な噂が流れたら醜聞になるからだ。
「リサ、私は今でも後悔している」
「え?」
「何故あの時…君の結婚を止めなかったのか。君が幸福になることを願っていたのに」
私の手を握りながら告げられた言葉に困惑する。
どうして旦那様がそんな悲しい顔をするのか解らない。
「君は幸せになるべきなんだ。その資格がある…なのに!」
「旦那様、私は自分で今の道を選びました」
決して不幸だとは言わない。
ロンドと結婚する事を選んだのは私だわ。
そして義両親と同居を決めたのも。
「君は全然幸せそうじゃないじゃないか…無理をしてばかりで」
お嬢様の言葉が胸に突き刺さる。
私は身近な人をこんなにも悲しませてしまっていることに気づかなかった。
我慢すればいい。
そんな馬鹿な事を考えた故に、旦那様までも傷つけてしまった。
「君にはとても感謝している。一人ぼっちのアンを救ってくれたこと」
「お嬢様が強い方です」
「ああ、姉同様に強いだろう…だがまだ子供だ。一人で生きていけるわけじゃない」
「旦那様がいらっしゃいます」
二人は本当に不器用だ。
でも、家族上の確かな絆がある。
だから大丈夫だと思う。
でも私はロイドとこんな風に愛を育めただろうか。
「旦那様、そろそろ」
「ああ…すまない」
手を離され、私は馬車に乗り込んだ。
「出してください」
「はい」
握られた手が熱く感じた。
「あら?」
ふと指に何かはめられているのに気づいた。
「これは指輪…」
あの時旦那様にはめられたのかしら?
明日、伯爵家に行ったら帰そうと思いながら馬車はシンパシー家に到着した。
「リサちゃん!」
「スコット先生?」
馬車を降りて邸に戻ろうとしたらスコット先生が焦った表情で私を呼び止めた。
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