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何を言われても毅然とする騎士は流石だった。
伯爵家の護衛騎士として抜擢されただけはあると思う一方で今日は何時になく饒舌な気がする。


「相当怒っていますな」

「当然よ。彼は護衛騎士であると同時に、騎士仲間から町の情報収集をしているわ。だから聞いたのではなくて?」


御者とお嬢様がうんうんと頷いている。

「リサ先生、私のような者が口を出すのは無礼と思います。ですが噂は事実です」

「えっ…」

「町では先生が夫に虐げられるとか、健気にも義姉の子を育てているとか」

言葉を飲み込む御者が視線を逸らせた。

「言ってください」

「それは…」

「言いなさい」


お嬢様に強く命じられたことで言わざる得なくなる。


「リサ先生に子供が出来ないのはリサ先生がご病気だとか…」

「なっ…なんですってぇ!」

「お嬢様、声を」


いくらこの馬車が防音設備があると言えど騒げばバレる。


「その…他にもその」

「馬鹿じゃないの!子供なんて欲しいから生まれるもんじゃないでしょ」

「お嬢様。それ以上は…」


淑女として大きな声で発言してはいけない。

「私の母は結婚して十年後に私が生まれたと聞いています」

「ええ…子爵様は子供が出来にくい体だったようで」

「でも、お母様はお父様の立場を慮ってご自分が子供が出来にくい体だと言っていたそうです」


なんて素敵なお母様なのかしら。
夫の名誉を守る為にそんな嘘を簡単に言えるものじゃない。


「素敵な方ですね。そしてお強い方」

「ええ、ローズ様は本当に強い方で。若かりし頃は旦那様に色目を使う令嬢を徹底的に排除しておられました」


「排除…」


私と御者はお嬢様を見る。
お嬢様の気の強さは間違いなく母親似であることが解る。

「お父様も叔父様も軟弱すぎるのよ!男を調子に乗らせてはダメなのだから」

ぷんぷんと怒るお嬢様の姿に少し苦笑する。

確かに次世代を担う女性は強くなくてはならない。


「私もお嬢様を見習わなくてはなりませんね」

「そうです先生!ダメ男は甘やかしてはダメなのよ」


本当に逞しく成長されて。
逞し過ぎる程だったけど、家庭教師としては嬉しくもある。


私もちゃんと彼らと話をしよう。
今の宙ぶらりんの状況は良くないし、義姉の事もだけど。

このままではミレイの為にも良くないわ。


まだこの時は心の何所かでロイドを信じていたのかもしれない。


既に手遅れであることを知らずにいた私は馬鹿だったのかもしれない。


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