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 震えが止まらなかった。
 平常心を保とうとしても、ご夫人の言葉は私を追い込んでいく。


「義母は親切心で嫁を育てなくてはと言ってね」

「育てる?」

「ええ、嫁だからあああるべきだ。こうあるべきだと…私もできる限り耐えたました。でも、私の生きがいの仕事を奪ってそれが当たり前だという夫に違和感を持ちました」


 自覚のない悪意。
 本人は親切心を押し付ける行為が一番達が悪い。


「姑としての愛情。そういえばそれまでです。だけど、夫は次第に私の言葉もすべて拒否して…それでも耐えました。いつか理解してもらえると思っていたけど」

「何かあったんですね」

「ええ、義妹が里帰りを頻繁にするようになったのです」

 同じだと思った。
 今の私と全く同じ状況だ。


「孫を欲していた義両親は両手を上げて歓迎しました。でも私は疎外感を感じて、いつも輪に入れず、義妹には子ができない体を責められ、近所にも私が子供が出来ないことを触れ回られて」


「なんて非常識なの」

「けれど義妹は言いました。これも貴女の為なのよ。家族なのだから心配しているのと…」



 もう聞いていられなかった。
 家族だから助け合うなんて言葉が口癖な彼らに私は――


「子供が出来ない私に先輩風を吹かせ、陰ではハズレ嫁だと言われ…私は耐えられなかったけれど、ようやく子を授かりましたけど」

「もしかして…」


 影を落とした表情に私は最悪な予想をした。


「ええ、義母はもともと持病を抱えていて。そのお世話で子を…」

「酷い…酷すぎるわ」

「私は身を切られるような思いでした。なのに夫は寄り添ってくれず泣き続けました…そんな私に義妹は責めました。何もしない私にいら立ったのでしょうね」


 どうしてそんな酷い事が平気で言えるの?
 子供を流産して平気な女性はいないのに何故?


「子が流れて、体がも弱くなった私に義母は義妹の子を我が子だと思いお世話をするように言い、義妹は毎日実家にいびり立って…私は離縁を願い出ました」


「ですが…」

「ええ、実家に帰ることができません。家族に迷惑がかかるもの」



 胸が痛かった。
 最後の最後まで苦しい思いをして気持ちに寄り添ってくれない夫。


 当たり前のように利用した義両親。
 自覚がないから悪いと思うことなどないからこそ、余計にたちが悪い。


「でも、ふと思ったんです。あの時素直になってちゃんと言えばよかったのではないかって」

「素直に?」

「何も言わないで察しろなんて無理な話ですもの。義両親や義妹はともかく夫にはちゃんと話せば良かったと」



 何も言わないで心の内にため込んでいても仕方ない。


「私も何も言っていません」

「先生…」


 解ってくれないことの不満を言う前に一度ちゃんと話してみた方がいいかもしれない。


「アドバイスをありがとうございます奥様」

「名前をまだ言ってませんでしたわね。グレイスと申します」


 素敵な響きな名前。


「リサと申します」

「私はマリーアンジュと申します」


一期一会の出会い故に家名は名乗ることはなかった。



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