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しおりを挟む着せ替え人形というのはとても大変なんだと改めて思い知った。
「きゃあ!これも素敵ですわ」
「店長、やはりお色は華やかにされた方が」
「髪飾りも華やかなものにしなくては」
私と年齢が変わらない女性達が囲み楽しそうだった。
「それにしてもなんて艶やかな髪なのでしょう」
「本当に絹のようですわ」
「そう…ですか?最近は手入れを怠っていたので」
私の髪を結ってくれる髪結師である女性が目を見開く。
まるで獲物を見つけたような表情で少し怖くなったのだ。
「これで手入れを怠った?」
「ちなみにだけど、三年前の写真よ」
「お嬢様!」
隣でお嬢様が写真を取り出す。
常に持ち歩いていたなんて初めて知ったわ。
「まぁ、なんて美しい御髪。それにお肌も…」
「もちろん加工だってしてないし、こっちはメイクしてないわ」
「止めてくださいお嬢様!そんなノーメイクの写真…っていうか、いつの間に」
そういえば伯爵家ではやたらとカメラマンが出入りしていた気がする。
旦那様が日々、お嬢様の成長を映像に残したいとか言っていらしたのを思い出す。
「まぁ、なんて美しい御髪なのかしら」
「どうしたらこんな綺麗な髪を…」
よく見ると髪結師の髪は綺麗に染めているけど艶がない。
平民に限らず下級貴族の間では髪を美しく見せる為に染めたり巻いたりするけど、その所為で髪が痛む。
キューティクルとはいいがたい髪質だ。
「フンッ!この私の自慢の髪も先生に手入れをしていただいたのよ」
くるりと回りながら髪を翻すお嬢様。
まるでモデルのショーを見ているようだった。
「一体どんな香油をお使いに?」
「香油…」
そうだった。
一昔前は香油を使っていた。
現在は石鹸を使い洗髪した後に髪の毛を美しく見せる為に薬草を使って艶を出していた。
ただし艶が綺麗にでるわけではない。
「私が使っているのは香油ではなく果物を使ったシャンプーで汚れを落としています。その後にリンス―を使っていまして…」
通常とは少しヘアケアの仕方が違う。
ここ最近はヘアケアを怠っているけど。
「やはり高位貴族の方は違いますわね」
「え?」
「私は数多のご令嬢、ご夫人を見てまいりましたが。立ち振る舞いや所作で育ちが解りますわ。何よりティンファニー伯爵家の家庭教師となれば相応の身分の方かと」
「いえ…」
嘘でしょ?
ティンファニー伯爵家って、そこまですごかったの?
何代も続く貴族とは聞いていた。
実際親族が皇室に入ったと聞いていたけど。
旦那様自身は関係ないと言っていらしたし。
「伯爵様も潔癖症な所がありますし…使用人は古くから仕えているもの以外は拒絶されてますわ」
「仕方ありませんわよ。ティンファニー伯爵家と繋がりを持ちたい方は多いですから」
「これ!無礼でしょう」
若い髪結師や化粧師がきゃあきゃあと話していたがオーナーが咎める中私は眩暈がした。
知らなかったからだ。
だって気さくで優しい方で。
失礼だけど優しい兄のように慕っていたもの。
行儀見習いだった時に出会い、良くしてくださったから。
そんな風に思わなかった。
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