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しおりを挟むお嬢様が猛反発するのには理由がある。
理由なしに他人を毛嫌いするような方ではないのは私も良く知っている。
気の強さが目立つ方だけど、本当は思いやりのある方だ。
この世は未だに男尊女卑が酷い故に、同居している妻はどうしても立場が弱い。
酷い話であるけど、義両親の世話をするのは嫁と考える人が多いのだ。
その所為で犠牲になった妻である人の中にお嬢様が懇意にしている方も少なくなかった。
「リサ先生」
「旦那様?」
「先ほどはあの子が無礼を言って申し訳ない」
申し訳なさそうな表情で詫びる旦那様。
謝る必要はないというのに本当に律儀な人だった。
「お嬢様はお優しい方ですから」
「そう言ってくれると助かるよ」
お世辞ではなく事実だわ。
私の事を心配してくださっているのは事実なのだから。
「お嬢様はあの若さで大変聡明な方です。何より大人の善悪を見抜く能力に優れていらっしゃいます」
「叔父としては喜べないが、物心つく前から大人の裏の顔を見てしまっている。未だに心の傷は消えないんだ」
大切なご両親を亡くした葬儀で、親族は遺産は誰が継承するのか。
後見人となればお嬢様が引き継ぐ遺産は好きにできると思ったのだろう。
しかも事故を起こした側に多額の慰謝料を請求できるので金の亡者の輩からすれば何が何でもお嬢様を引き取ろうと考えた。
しかし調査をした後に、こちら側も非があるということで慰謝料の請求は難しくなった。
それだけでなく当時、お嬢様の父君、子爵様の事業の一つが大事故になり。
過失が子爵様にあることが判明し財産は凍結となった。
その為残った財産は母君の所有するもののみだったが、それだけでも莫大な金額ではあるので養親縁組を望む声が大きかった。
けれど、遺産を奪った後どうなるか。
だからこそ旦那様は自分の手元に遺産が来ないように手続きをした。
本来なら弟である旦那様も遺産の取り分があるのにだ。
願うのはお嬢様の幸福。
穏やかな生活を送って欲しいという思いだけだった。
「アンは先生を慕っている」
「旦那様?」
「だからその…心配なんだ。私も…その」
お優しい旦那様。
思えば幼少の頃から使用人も優しく、私のような身分の低い者に対しても良くしてくださった。
「ありがとうございます旦那様」
「リサ先生…私は」
「失礼します」
旦那様の言葉を遮るように侍女が現れる。
「シンパシー家から火急で戻ってくるようにと連絡が来ておりますが、どうしたしましょう」
「火急だと?」
「まだ勤務時間だというのに」
結婚してから私が外で働くことに難色をしめしていたロンド。
今日も仕事の終わる時間は知らせておいたのに。
結局その日は大した用事ではないのに早退させられたのだった。
でも、義両親と同居したら同じような事が起きるのかと不安を抱かずにはいれなかった。
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