18 / 48
第一章婚約破棄事件
6.迷い子
しおりを挟むあの時夢で見た悪役令嬢に顔立ちが似ていた。
まだ二歳になるかならずやの幼い子供です。
年齢はセレニティーと同い年ぐらいでしょうか?
「ひっく…」
「そこの可愛らしいお嬢さん。私と一緒にパンを食べませんか?」
涙目で私を見上げるその子に焼き立てのロールパンを見せました。
「香ばしく中はフワフワ、食べるとほっぺが落ちますよ。食べなければ損です」
「わぁー…」
焼き立てのロールパンを半分にするとほんわかと香りが広がります。
しかもこのパンは幼児も食べられるように柔らかく口の中では解けて行くのです。
「実は娘のおやつなのですが、こっそりいただきました」
「おいしい…」
ようやく涙が止まったようです。
「一緒に飲み物はいかがですか?これも絶品ですよ」
我が商会と提携している牧場です。
ただし牛乳ではなく山羊のミルクなので濃厚でアレルギーにも配慮しているのです。
最初頃は顔に表情がありませんでしたが今では笑顔を浮かべて沢山食べていますね。
しかし、セレニティーと同い年にしては随分と痩せています。
「リリアン様!」
「あっ…」
そんな中大きな声で叫び、中に入って来たのは年若い侍女らしき女性でした。
「探したのですよ、勝手に出歩いて…お父様の迷惑になりますでしょ?」
「ごめなさ…」
「申し訳ありません。私がお誘いいたしました」
私の袖を掴みながら今にも泣きそうな表情をする彼女を見て我慢できなくなりました。
「まぁ、なんて非常識な方なのかしら?この方をどなたか解っての無礼ですか。今すぐ名前を名乗りなさい。一介の使用人風情がなんと!」
「申し遅れました。私…」
「リリアン!」
そこにまた何方かがお入りになって来ました。
よく見るとその方は旦那様と懇意になさっているジュノワール侯爵様でした。
「おとーさま…」
余計に怯えてしまっています。
「ここにいたのかリリアン」
「お嬢様を勝手に連れ出し、下衆な物を食べさせていたそうなのです!すぐに…」
「リリアン、パンを食べたのか?」
「旦那様?」
ジュノワール侯爵様はしゃがみ込み、同じ視線になって尋ねられました。
「食が細いお前が、パンを食べたのか?」
「あっ…はい」
「そうか。パンは美味しかったか?」
遠慮がちに首を縦に振った。
「そうか、美味しかったんだな。それは良かった」
「侯爵様、この度はご息女を勝手に連れ出し、あげくに無礼をどうかお許しくださいませ」
「頭を上げてくれ、悪い事は何もしていないだろう」
私を咎めることなく下げた頭を下げるように優しく言ってくださった。
元よりシュノワール侯爵様は口数は少なくともお優しい方だったので咎める事はないのだが、何故か後ろで侍女が叫んだ。
「何をおっしゃっておられるのです旦那様!この女はお嬢様を誘拐したのですわ!」
誘拐とは随分、酷い言い方です。
「ちが…」
「レティー、何の騒ぎだ」
今度は旦那様が現れました。
「伯爵様…この者が!」
「私の妻が何か?」
「へ?」
私を指さした侍女さんを笑顔なのに目が全く笑っていない旦那様。
これはかなり怒っています。
激おこですね。
「私の妻を指で刺さないでくださいますか。無礼ですよ」
「奥方…」
完全に固まってしまいましたね。
ですが、そこで侯爵様が出て来て先ほどの事を言い出しました。
「何でも伯爵夫人が私の娘を誘拐したと言うのだが…ありえないだろ?」
「私の妻がそんな馬鹿な事をすると思いますか?妻は無駄な事はしない主義ですよ」
随分な物言いです。
確かに常に利益を考えますが人の道から外れるような振る舞いをするわけがありません。
旦那様は私を何だと思っているのでしょう。
1
お気に入りに追加
2,518
あなたにおすすめの小説
処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~
インバーターエアコン
恋愛
王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。
ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。
「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」
「はい?」
叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。
王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。
(私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)
得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。
相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。
自分の完璧に応えられない妻を売った伯爵の末路
めぐめぐ
恋愛
伯爵である彼――ボルグ・ヒルス・ユーバンクは常に、自分にとっての完璧を求めていた。
全てが自分の思い通りでなければ気が済まなかったが、周囲がそれに応えていた。
たった一人、妻アメリアを除いては。
彼の完璧に応えられない妻に苛立ち、小さなことで責め立てる日々。
セーラという愛人が出来てからは、アメリアのことが益々疎ましくなっていく。
しかし離縁するには、それ相応の理由が必要なため、どうにかセーラを本妻に出来ないかと、ボルグは頭を悩ませていた。
そんな時、彼にとって思いも寄らないチャンスが訪れて――
※1万字程。書き終えてます。
※元娼婦が本妻になれるような世界観ですので、設定に関しては頭空っぽでお願いしますm(_ _"m)
※ごゆるりとお楽しみください♪
これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。
りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。
伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。
それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。
でも知りませんよ。
私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
[完結]私はドラゴンの番らしい
シマ
恋愛
私、オリビア15歳。子供頃から魔力が強かったけど、調べたらドラゴンの番だった。
だけど、肝心のドラゴンに会えないので、ドラゴン(未来の旦那様)を探しに行こう!て思ってたのに
貴方達誰ですか?彼女を虐めた?知りませんよ。学園に通ってませんから。
20年越しの後始末
水月 潮
恋愛
今から20年前の学園卒業パーティーで、ミシェル・デルブレル公爵令嬢は婚約者であるフレデリック王太子殿下に婚約破棄を突き付けられる。
そしてその婚約破棄の結果、フレデリックはミシェルを正妃に迎え、自分の恋人であるキャロル・カッセル男爵令嬢を側妃に迎えた。
ミシェルはありもしないキャロルへの虐めで断罪された上、婚約破棄後に出た正妃の話を断ろうとしたが、フレデリックの母からの命令で執務要員として無理矢理その座に据えられたのだ。
それから時は流れ、20年後。
舞台は20年前と同じく学園の卒業パーティーにて、再び婚約破棄の茶番劇が繰り広げられる。
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな
恋愛
私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。
平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。
ねがえり太郎
恋愛
江島七海はごく平凡な普通のOL。取り立てて目立つ美貌でも無く、さりとて不細工でも無い。仕事もバリバリ出来るという言う訳でも無いがさりとて愚鈍と言う訳でも無い。しかし陰で彼女は『魔性の女』と噂されるようになって―――
生まれてこのかた四半世紀モテた事が無い、男性と付き合ったのも高一の二週間だけ―――という彼女にモテ期が来た、とか来ないとかそんなお話
※2018.1.27~別作として掲載していたこのお話の前日譚『太っちょのポンちゃん』も合わせて収録しました。
※本編は全年齢対象ですが『平凡~』後日談以降はR15指定内容が含まれております。
※なろうにも掲載中ですが、なろう版と少し表現を変更しています(変更のある話は★表示とします)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる