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第二章

28.ヒロイン故に

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お茶が冷めない内にラースさんを呼びに向かった。


「あ、いた」

人通りの少ない裏庭から後ろ姿を見えた。


「ラースさ…」


「いい加減に目障りなのよ!」


バシッという音が聞こえ、悲鳴が聞こえた。


(え?何?)

私は驚きながら声のする方に向かうと、ラースさんは囲まれていた。

しかも、制服はずぶぬれで、本を踏みつけられていた。

「止めてください、それは大事な本で」

「何よ、こんな本!それに目障りなのよ、その古臭いペンダント」


あれは、何時も身に着けている大事なペンダント。


確か、この魔法学園に入る時にお祝いに両親からプレゼントして貰ったって。


「光の魔力を持っているからって、不正をして、あまつさえ生徒会の皆様に取り入るなんて最低よ!」

「そうよ、生徒代表はエカテリーナ様こそ相応しいのに!申し訳ないと思わないの」

「アンタなんて早く退学になればいいのよ」


一人を大勢で囲み、責め立てる彼女達に私は幼い頃を思い出す。


ただ理不尽な言い分に耐えるしかなかった。
私が加護を持たないから公爵家は馬鹿にされる。

私が生まれてこなければ良かったのに。

高位貴族の恥さらしだと言われたあの頃を。


「アンタの両親は平民なのに魔力を持っているなんてね?」

「本当…母親が貴族にすり寄ったんじゃない?」

「うわぁ、最低ね?蛙の子は蛙って事ね」


――酷い。

親の事まで言い出すなんてなんて酷いの。



「違います!」

「逆らうんじゃないわよ!」


――もう我慢できない!

私の中で沸々と怒りが芽生えて来た。


努力している人間を叩き潰し、自分が選ばれないから暴力を振るい。


そしてあくまでもエカテリーナの為だと主張するのに嫌悪してしまう。

こういう人間は自分を正当化して、最後は他人の所為にするんだ。



「ふざけるな…」

私の心の奥底で何が切れた気がした。



同時に、地面のツルが動き苛めをしている女生徒の足に絡んだ。


「きゃあ!」


主犯の女子生徒は転びペンダントが宙を舞う瞬間、私はツルを鞭にしてペンダントをキャッチした。


「いい加減にしなさい」

「エリーゼ様!」


私の魔力は緑。
植物を操る能力に特化している。

けれど、魔力の法則として土木は切って離せない関係性がある。

緑の魔力を使い、地面を不安定にすることはできる。



「きゃあ!」

「何、地面が!」


地面に小さな穴を空けることぐらいはできるのだ。


「我が学園では寛容と慈悲をモットーにしているのに、何をなさっているの?」

「これは…」

「エカテリーナ様の為に!」


直ぐに言い逃れをしようとするが…


「貴族の品位を誰よりも重んじる方が、いくら指導と言えど過激な真似をするとは…しかもサーシャさんは生徒代表で生徒会の人間…生徒会の人間は学園の代表でもあります。その彼女を害するならばタダで済みませんわね」

「あっ…」

「何より私の友人を侮辱するなら許さないわ!」





私の怒りに反応して木の枝が活性化する。

そして私が持っているツルの鞭も変化し、彼女達は…

「いやぁぁぁ!」

「ごめんなさぁぁい!」

涙目で逃げてしまった。


泣きながら逃げるって、随分失礼だわ。


まぁとりあえず。
汚れた本をなんとかしないと、それにペンダントも。

「うっ…ぐず」

「ラースさん!何処か怪我を!」

ずっと俯きながらも耐えていたラースさんは泣き出した。

余程怖かったのだろう。

「うわぁぁぁん!」

私にしがみ付き震えながら泣く彼女を見て私は自分が情けなかった。


彼女はヒロインという立場故に孤独だったはずなのに。
ゲーム上では誰からも愛されているけど、無条件に誰からも愛されるなんてまずないのだ。

気づけなかった私は大馬鹿だ。

彼女は見た目も中身も13歳の少女なのだから。



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