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第一章
3こっそり贈り物
しおりを挟むエスカルタ王国の第一王子、フェリクス殿下とリーゼロッテ様が婚約されたのは十年も前の事だった。
公爵令嬢であるリーゼロッテ様との婚約は政略結婚でありながらも関係は良好だと聞かされている。
真実がどうかは解らないけど、遠目から見てもお二人は親しく幼少期からのお付き合いで幼馴染だと聞いている。
知的で聡明なリーゼロッテ様は常にフェリクス様を支えておられた。
お父様もこの婚約は理想的であると聞いているし、私も式典に参加しながらお二人の様子を見ていた。
なのにどうして――。
だけど学園ではかなり有名な噂となっている。
「聞きましてあの噂」
「ええ、フェルリス殿下が他の女子生徒と」
「先日はお二人が庭園で堂々と抱擁を交わしキスをしているのを見たとか」
聞きたくなくても噂を流す人がいる。
私だって王子の恋愛事情には興味がないのだけど。
無神経な彼女達に苛立つ。
リーゼロッテ様に聞こえるじゃない。
私はあの日、リーゼロッテ様が流された涙を忘れることができない。
なんとかして元気づける方法はないか。
「恋愛偏差値0の私では難しわね」
この方恋なんてした事がない私には未知の世界だ。
「お慰め…いや、見られたくないわね」
気高いリーゼロッテ様は泣いているなんて知られたくないはずだから私は人知れずお慰めする事にした。
その日私はこっそり二年の教室に向かい薔薇の花束を机に置いた。
リーゼロッテ様が一番好きな薔薇でリボンは青い色。
「どうか愛の女神様、リーゼロッテ様を笑顔にしてください」
薔薇を司る女神様に祈り私はこっそり教室出て行く。
その日を境に私は、隠れて薔薇の花束を贈るようになった後に。
薔薇を毎日のように贈るのが日課になる。
メッセージカードを添えてだけど。
薔薇だけではなく他の花をアレンジした。
そんな私の努力の甲斐があってか、リーゼロッテ様は元気を取り戻してくださり安堵した。
だけど――。
「よし今日も花束を…」
二年生の教室に侵入していた私は。
「誰かいるのか」
こっそり花を置いているのを見つかってしまった。
急いで教卓の下に隠れるも。
「それで隠れているつもりか。馬鹿か?」
「ひぃ!」
もし見つかったらどうしよう。
もしかして退学?
「見逃してください。どうか退学だけはご勘弁を!」
ここで捕まったらどうなるのか。
両親に顔向けできないのも嫌だけど。
「リーゼロッテ様に嫌われるぅ!」
私にとって世界の中心はあの方だったのに軽蔑された目を向けられたら生きて行けない!
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