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第一章
閑話3。不穏な兆し②
しおりを挟む王からの叱責により司祭は頭を悩ませていた。
サンドラの聖女としての能力が衰え出した事は王都でも噂になっている。
能力だけならまだ良い。
聖女としての品位にも問題視する声も上がってきているので反発する者は貴族だけでなく平民も多かった。
反対にリリアーナに対する評価が鰻登りだった。
聖女の身代わりとして身を差し出し国を守った救世主だ平民の間では有名になり、王都ではある小説が爆発的に売れている。
国の為に身を差し出した幼き姫が主人公とする物語で、平民達の涙を誘った。
現在は社交界でもその小説が人気となり、リリアーナを憐れむ声と同時に、自分の婚約者を平然と差し出しながら堂々と聖女の騎士を気取るロイドに批難の声が上がり、社交界では別の噂が流れ始めた。
聖女程の知名度は無くとも癒しの姫として常に戦場に立つ戦士の灯となっていた。
宮廷貴族達は戦場に立つ辺境地が常に死と隣り合わせで戦っている事など知ろうともしない。
常に命がけで戦っていると言うのに。
癒しの姫でもあるリリアーナは彼等にとって希望だった。
そんなリリアーナを犠牲にした聖女は王宮での何不自由なく過ごし、役目も果たしていなければ反感を持たれても無理はない。
挙句の果てに東と西の神殿に魔獣が襲い掛かって来たとなれば、聖女の資格を剥奪しろと言われても無理はない。
聖女の失態は神殿側の失態となる。
そして残りの北と南の神殿を失うような事があれば初代白き巫女の結界は壊れ、精霊からの加護も失うことになり国は崩壊してしまうのだ。
それだけはどうしても避けなくてはならないが、癒しの姫がいない状態で魔獣を鎮める手段はない。
癒しの姫は傷を癒しだけでなく、魔獣達と心を通わせることもできる特殊な一族だった。
ただし、魔獣を野蛮だと決めつける貴族からは野獣のようだと言われ、嫌われていた。
野獣は野獣と仲良くするのがお似合いだと散々馬鹿にしていたツケが今になって来ているのだから笑い話で済まなかった。
恥を忍んで被害に合う貴族はアンシー家に手紙を出すも、オーディンからは良い返事は来ることはなく。
「魔獣と心を通わせることができるのは女性のみ。私では無理でしょうな」
遠慮がちに言われてしまった。
せめて援軍を頼もうにも、最後の守りとなり北の最果てを守る力を削ぐのか?とも言われれば何も言えなかった。
父親がダメならばルーカスを利用しようと思ったが、既にルーカスは伯爵位を与えられ。
現在は王女殿下の専属護衛を任される立場となっており、多忙の身となっていた。
近衛隊に配属され、出世を果たした。
ルーカスの出世と同様に領地を与えられるこちになり、メイデン伯爵を凌ぐほどの財を築き上げていた。
伯爵家の子息でしかないロイドと異なり爵位を持つルーカスでは月とスッポン並みの差があり、簡単に声をかけることもままならない状態だった。
このままではいずれ、神殿側が境地に立たされるのは時間の問題だったが、さらに悲劇が襲い掛かる事になった。
東の神殿が崩壊した知らせを受けたのだった。
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