6 / 36
第一章婚約破棄と勘当
5.救ってくれたのは
しおりを挟むリーンハルト下らないおしゃべりにある程度付き合い、両親の友人に紹介されながらもリリーの精神は限界を達していた。
これ以上ここにいたくないと思い、逃げるように外に出た。
「もう…嫌だ」
こんな汚い場所にいたくない。
両親の本性を知ってしまい、姉の婚約者の真意に気づいたリリーは声を殺して泣いていた。
「帰りたい…下町に帰りたいよ…」
こんな所よりも下町の方がずっといい。
生活は苦しくてもそこには自由があったし、優しい人に囲まれていた。
「リリー?」
「お義姉様?」
「どうしたのです、誰かに何か言われましたの?」
庭で薔薇を手折っていたコーデリアが声をかけてくれた。
「顔色が悪いわ、コルセットが苦しかったのかしら?」
心配そうにしてくれるコーデリアに更に悲しくなった。
愛人の娘で婚約者を奪ってしまっている妹を憎いはずなのに、恨み言一つ言わない。
本心ではどう思っているか解らないけれど、決して表に出さないコーデリアは強い女性にも思えた。
「お義姉様…ごめんなさい…ごめなっさ」
泣くなんて卑怯だと思いながらも涙が止まらなかった。
けれど――。
「泣くのはお止めなさい」
「ぐっ…グズっ」
「泣けば状況が変わるのですか?違いますでしょう?貴族令嬢はいかなる時も泣いてはなりません。弱みに付け込まれ、自分の身も危険に晒す行為になりますわ」
「でも…」
ハンカチで涙を拭うコーデリアの目は厳しくも優しいものだった。
「淑女は簡単に涙を見せるものではないわ。特に社交場では常に笑っていなくてはならないの。どんな苦しくても、辛くても」
「ずっと笑うの?悲しくても人形のように?」
「人形に慣れないわ…私達には心があるのだから」
心を殺し続けるのは無理なのにどうすればいいのか。
「自分だけの居場所を探せばいいの、例えば好きな場所に自分の心の在処を作るの」
胸に手を当てるコーデリアの目は穏やかだった。
「私は本を読むのが好きだから、部屋で本を読んでいる時だけが安らぎの時間だわ。貴女は?」
「私は服を下町にいた時は…教会でパンを焼いていたわ!」
「まぁ、色々できるのね」
懐かしい下町の暮らし。
生きるのに精一杯であるけど自由があった。
細やかな幸福があった事を思い出す。
「貴族の暮らしは窮屈でしょうけど、私達は既に上に立つ者です。上に立つ者は責任があります」
「お義姉様…」
「侯爵令嬢という肩書は決して小さくないのです。そのことを頭の片隅に残しておいてください」
悲しげな瞳でリリーを見つめるコーデリアは、侯爵令嬢という肩書で多くの物を奪われながらも耐えている。
「さぁ、主役が何時までもここにいては行けないわ。戻りなさい」
「じゃあ、お義姉様も一緒にいてください。あそこに一人で戻りたくありません」
「仕方のない子ね」
困った表情で手を繋いでくれたコーデリアに温かみを感じた。
何時以来だろうか。
人の温もりを感じたのは。
思えば、侯爵家に来てから両親は物を与えて猫かわいがりはしてくれるだけだった。
だからこそ気づいてしまった。
あの二人は本当の意味でリリーを愛しているわけではない。
自分はあの二人の欲望を満たすだけの玩具なのだと。
飾りでしかない。
ならば、来る日まで身を潜め報復してやると決めた。
そして、何時かこの家を出よう。
コーデリアと一緒に外の世界に出ようと心に決めたのだった。
47
お気に入りに追加
2,174
あなたにおすすめの小説
王太子から婚約破棄され、嫌がらせのようにオジサンと結婚させられました 結婚したオジサンがカッコいいので満足です!
榎夜
恋愛
王太子からの婚約破棄。
理由は私が男爵令嬢を虐めたからですって。
そんなことはしていませんし、大体その令嬢は色んな男性と恋仲になっていると噂ですわよ?
まぁ、辺境に送られて無理やり結婚させられることになりましたが、とってもカッコいい人だったので感謝しますわね
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます
神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。
【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。
だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。
「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」
マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。
(そう。そんなに彼女が良かったの)
長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。
何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。
(私は都合のいい道具なの?)
絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。
侍女達が話していたのはここだろうか?
店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。
コッペリアが正直に全て話すと、
「今のあんたにぴったりの物がある」
渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。
「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」
そこで老婆は言葉を切った。
「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」
コッペリアは深く頷いた。
薬を飲んだコッペリアは眠りについた。
そして――。
アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。
「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」
※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)
(2023.2.3)
ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000
※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)
ランプの令嬢は妹の婚約者に溺愛され過ぎている
ユウ
恋愛
銀髪に紫の瞳を持つ伯爵令嬢のフローレンスには社交界の華と呼ばれる絶世の美女の妹がいた。
ジェネットは幼少期の頃に病弱だったので両親から溺愛され甘やかされ育つ。
婚約者ですらジェネットを愛し、婚約破棄を突きつけられてしまう。
そして何もかも奪われ社交界でも醜聞を流され両親に罵倒され没落令嬢として捨てられたフローレンスはジェネットの身代わりとして東南を統べる公爵家の子息、アリシェの婚約者となる。
褐色の肌と黒髪を持つ風貌で口数の少ないアリシェは令嬢からも嫌われていたが、伯爵家の侮辱にも顔色を変えず婚約者の交換を受け入れるのだが…。
大富豪侯爵家に迎えられ、これまでの生活が一変する。
対する伯爵家でフローレンスがいなくなった所為で領地経営が上手くいかず借金まみれとなり、再び婚約者の交換を要求するが…
「お断りいたします」
裏切った婚約者も自分を捨てた家族も拒絶するのだった。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
妹に婚約者を取られましたが、辺境で楽しく暮らしています
今川幸乃
ファンタジー
おいしい物が大好きのオルロンド公爵家の長女エリサは次期国王と目されているケビン王子と婚約していた。
それを羨んだ妹のシシリーは悪い噂を流してエリサとケビンの婚約を破棄させ、自分がケビンの婚約者に収まる。
そしてエリサは田舎・偏屈・頑固と恐れられる辺境伯レリクスの元に厄介払い同然で嫁に出された。
当初は見向きもされないエリサだったが、次第に料理や作物の知識で周囲を驚かせていく。
一方、ケビンは極度のナルシストで、エリサはそれを知っていたからこそシシリーにケビンを譲らなかった。ケビンと結ばれたシシリーはすぐに彼の本性を知り、後悔することになる。
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる