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140理性

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お姉様の瞳に一瞬、光が戻ったようだった。


「私は誰もいない…誰も声を聞いてくれない」


「ジャネット…」


お姉様の心の叫びに私達は気づけなかった。

でもこの中でお母様はお姉様の心の叫びに気づいていた?


「サリア…お前」

「カルディ、私はジャネットの悲しい気持ちが解るわ…」


「私は…」


お姉様はずっと誰かに心の声を聞いて欲しかった。

そして一番欲していたのは権力でも、聖女の座でもなく。


ただ…


「私は愛されたかった…愛情が欲しかった」


「ジャネット、許してちょうだい。私が弱かったせいで」


「ただ、私は…聖女になりたかったわけじゃない」


お母様は傷だらけになってもお姉様に手を伸ばした。


「今からでも遅くないわ。戻りなさい」

「戻る?」

「そうよ。人間は誰だって間違える。私は間違ってばかりだったわ」



お母様だけじゃない。
私だって見えてなかった、気づかなかった。


「誰もが間違いを繰り返す」

「サーシャ…」

私はお姉様と決別してこれでいいと言い聞かせたけど。


私はお姉様を切り捨てた。


けれどお母様は――



「戻りましょう。今からでも間に合うわ」

「もう…」

「たとえ貴女が悪魔になっても…私にとっては貴女は大事な娘よ」

血を流しながらもしっかりとお姉様を抱きしめる姿は神話に出てくる慈母女神のようだった。


「まさしく慈愛の女神だな」

「例の似非女神とは正反対ですね」


殿下とマリア様がそっと呟く。

本来ならば罰当たりだと思うけど私もそう思った。


「サリア様は若いころから愛情深かったわ」

「うわぁ!母上…」

「シュリ様…」


気配を感じなかったのに何故ここに?


「万一のことを考えて待機していたのよ」

「まったく人騒がせな親子だ」

グライアイ姉妹も待機してくれていたとは思わなかった。



「安心するのは早いよ」

「え?」

お姉様は正気を取り戻したけど違和感を感じる。


「違うわ…」

「え?」

「まだ悪魔は消えていない…まだいる」


マリア様の言葉に私達はハッとする。


お姉様の体から悪魔は消えているのに、悪魔の気配を感じるマリア様に私は…


「瘴気が充満している!まだ悪魔はいる!」


「お前達!気をつけな!」

「お婆様!」


グライアイ姉妹の言葉と同時に私達は黒い霧に囲まれ、悪魔が姿を見せたのだった。


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