聖女の妹は無能ですが、幸せなので今更代われと言われても困ります！

７９聖女の証

足元に強い光が螺旋を描いた。
黄金の光が魔法陣を描いた中に一輪の花の紋章が浮かぶ。


「あれは聖女の証！」

「あれが…」

まるで剣のような模様だった。


「あれはフルール・ドリス？」

「そうだ。白い剣は聖女の証。菖蒲の花は完全なる聖女の証だ」


聖書では天使の象徴は純白の百合の花。
対して聖なる剣となされるのは菖蒲の花だった。


「手に紋章が…」

「マリア殿覚悟に、証が選んだのか」


悲しい決断。
だけど女神様はマリア様の純粋の思いと覚悟が皮肉なことに聖女として完全に目覚めてしまうなんて。



「こうなると、もう彼女は無理だな」

「ええ、お姉様は」

聖女候補であるお姉様の聖女としての力は完全に消える。
過去に聖女候補は存在したが真の聖女が選ばれた際に聖女候補は力を完全に失うといわれている。


魔力もなくなるだろう。


「サーシャ」

「何も言わないでください。私は大丈夫です」


むしろこれから大変な間に合うのはお姉様かもしれない。
聖女になるのはお姉様の願いですべてだった。

その立場を失えば社交界でどう生きてくのか。


――何を考えているの私は。


マリア様の覚悟。
殿下の苦渋の選択を知ったというのにお姉様を心配してはいけない。


私はこれからお姉様と敵対する立場になるのだから。


ごめんなさいお父様。


許してくださいお母様。


私はリシュフーエル家に泥を塗ってしまうかもしれません。


でも――。



私はモニーク家に嫁ぐことは嫁ぎ先に従うこと。


「春麗、今から王都に戻っていいわ」

「お嬢様、今更ですわ」

「私は実家を捨てなくてはならないわ」


お姉様と敵対関係になる。
マリア様側にいるということあはお姉様の敵となる。

お姉様と争いたいわけじゃない。
でも、モニーク家がマリア様の後ろ盾になると自動的にそうなるだろう。


そしてお姉様は殿下と婚約を解消するだろうし。


「サーシャ、一人で思いつめるな」

「私は貴方の傍に」

「すまない」


「サーシャ様…」


私はお姉様を選ぶことはない。
きっとあの人も私を許さないだろうし、私にはすでに大切な人が、大切な場所ができてしまったから。


「今すべきことは殿下を、王都を守ることです」

「お嬢様ご立派です！泣きながら鼻水流してもご立派です」

「…ぐずん」


最後まで情けない私は笑顔を浮かべるなんてできない。
悲劇のヒロインなんて似合わないのだから。


「サーシャ、とりあえず涙と鼻水を」

「ぶわぁぁぁん！」


我慢していたのに、やっぱり無理だった。


この後私が号泣してしまったことでシリアスはぶち壊しになった。