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37王太子殿下

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「私は聖女の存在を良く思わない」


冷たい声だった。
王家は宗教を否定する事はあまりない。

なのにこの発言は何を意味するの?


「人の運命を勝手に決められては困る。聖女がいれば世界は、国は平和になる?馬鹿を言うな」

「ルミエル…」

「天災には抗えない。神が決めた運命は絶対かもしれない」

その言葉に苦悩を感じた。
聖女をありがたがる人間がいればそうではない人間もいるという事だ。


「聖女は国を豊かにできるのか?貧しい民に食料を与えられるのか?不正を暴けるのか?皆聖女がおれば国は安泰だと妄信している」

「ルミエル…」

「国を守って来たのは聖女じゃない、神殿を守って来たのは我が国の名もなき民だ。聖職者に歴代の教皇猊下や巫女達だ。なのに聖女の存在で彼女達の思いを踏みにじっていいのか?」


聖女の存在で得た者はあれど、犠牲になったものも確かにあって。
その犠牲にあうのは名もなき民なのかもしれない。


「そして望まぬ形で聖女にされた少女も存在する。公にされていないが…闇に葬られた事も」

「闇に…」

「時の権力者は欲の為に聖女を利用する。そしてその聖女も欲を持ち、国を動かしたいという野心を持てばどうなる?泣くのは民だ」


私は歴代の聖女様がどうなったかは知らない。
歴史とは塗り替えられるとも言われている。

戦争がいい例だ。
春麗の祖国も似たような事が伝えられている。

勝者こそが正義。
敗者は悪として片付けられるのかもしれない。


「マリアは望まない形でいきなり異世界に飛ばされた。しかも行く当てのない彼女を聖女になるしかないと洗脳する馬鹿共が彼女を追い詰めている」

「酷い‥酷すぎる」


いきなり家族と引き離され、いきなり聖女になれだなんて。
引き受けなかったらどんな目に合うか解らない。


何も知らず、いきなり知らない世界に放り出されてどんなに怖かったか。
きっとその少女は脅されたのかもしれない。


「マリアは聡明な少女だった。警戒心を持ちながら表向きは従う素振りを見せた」

「ああ、マリア殿は中々頭の良い方だった」


とても気丈な人なのだろうか。
普通はそんな風に振舞うなんてできない。

私だったら信じてしまう。
悪い人達に騙されてそのまま言いなりになるかもしれない。


「だが、日に日に洗脳に近い事をされている…後は聖女候補の君の姉を担ぎ上げる侍女が派閥争いをしている」

「意味があるんですか」

「無駄な時間と労力だ」


そんなことに時間を使う暇がある程暇なのかな?
争うのって疲れると思うんだけど。


「私は何とかして彼女を元の世界に帰してあげたい。無理だとしても我が国の問題に巻き込みたくない」

「殿下…」


やっぱり殿下はこの国の光だったんだ。
少女を守ろうと苦悩し責任を取ろうとされている。

素敵な王子様だ。


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