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番外編第二章元王子の行方
3.労働先
しおりを挟む空気が悪く、風通しも最悪な場所に多くの食器が流れて来る。
洗い場で数名の人間が永遠に終わりが見えない中、監視する女性が僕を怒鳴りつける。
火事となった次の日、僕はたたき起こされあの家からこの邸に住み込みで働かされることになった。
ジリーとダーエ夫人は修道院に入ることになったと知らされた。
何故そうなったか知らないが、僕に対する非道な仕打ちを懺悔したのだろうと思ったが。
僕はあの邸にいれなくなったのでたらい回しにされた。
最後に行きついたのが小さな邸で飲食店をしている女主人、マルリア夫人の元だった。
「そこ!何をやっているんだ!アンタが手を止めると隣の人間の作業が遅れるだろう」
ピシっ!
鞭で床を叩きつける音が聞こえる。
さっきからこの繰り返しだ。
ずっと立っているから足は疲れるし、水は冷たく手が荒れる。
何故こんな仕事を僕に!
「待ってくれ…さっきからずっと同じことばかりだろう!」
「だから何だ!アンタはまるで使い物にならないから一番簡単な作業をさせてやっているんだ。まったく、これが元王子なんて何の冗談だ…ここまで役立たずとは」
「冗談じゃない、僕は…」
「ダーエ夫人も可哀想にね。親族だからという理由で押し付けられ、アンタの所為で修道院に駈け込んで来るなんて」
「それは、彼女達があまりにも思い詰めて…」
「そうさっせたのはアンタだろ?アンタはこれまでそうやって周りを不幸にして来たのかい?自分は悪くないと言って」
「え?」
僕が周りを不幸にして来た?
「話を聞けば婚約者に不誠実な真似をしておきながら都合よく利用して、あげくに恋人までも自分の都合で振り回したって話じゃないか」
「僕は良かれと…」
「はぁー…止めな」
「え?」
マルリア夫人は僕を罵倒するでもなく、ただ呆れたようにため息をつく。
「アンタ、本当に解らないのかい」
「何を…」
「ちょっと来な」
作業辞めさせ、マルリア夫人は僕の手を引く。
「アンタ、あそこで漁をしている男は何歳ぐらいに見える?」
「四十歳ぐらいか?」
「二十一だ」
「え?」
髪の毛は白髪で体も痩せていて、とてもじゃないがそうは見えない。
「貧しさ故に、食う物も不足しているからだ。だけど、ここはまだマシだ。スラム街に比べればね」
マルリア夫人はただ遠くを見て告げる。
さっきまで怒っていたのに、今は違う。
「アンタは王子様だった…だけどね。外の世界を知らなさ過ぎた…だからこそ今からでも現実を見ないとダメだ」
「現実…」
まるで幼子に言い聞かせるかのようだったのに嫌な気がしなかった。
だからだろうか耳を傾ける事ができたのかもしれない。
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