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番外編一章第一王子

8.追放の後

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王都を出るのは早い方が良い。
王宮にて準備を進める中、アルデンテ侯爵ともう一人俺の見送りに来た者がいた。


「ルクシウス」

「殿下、王都までは私が影武者になります」

「は?」

とんでもない事を言われて耳を疑う。

「まさか無事に王都を出られると?相変わらず甘ちゃんですね。だからこんな事になるんですよ」

「無礼ではありませんか!」

「止めろ、エデン」

俺を庇いながらルクシウスを睨むが、彼の言葉は最もだった。


「必ず帰って来てください。やり逃げは許しませんよ」

「は?」

「ティアの心を奪ったのですから責任を取ってください。私はあんな洟垂れ王子を主君だなんて認めません。国が沈みます」

「堂々と王太子殿下に…なんと恐ろしい人だ」


エデンの怒りは一瞬で消えているが、呆れていた。
まぁ、俺を励ますための言葉だと理解したが。


「北の領地は厳しい土地ですが心身共に鍛え治すには理想的です。辺境伯爵を認めさせればあるいは…」

「ああ」

生きるか死ぬかの瀬戸際であるが、どん底まで落ちたのならこれ以上落ちる事もない。


「殿下、どうかご無事で…ティアは強い子です。ですから…」

「ああ」


普段はあれだけ俺との仲を邪魔している癖に。
人が良すぎるんじゃないか。



「ここより、追手をルクシウスが引きつけますが…安全とは言えません」

「解った」

「船に乗れば逃げ切れるはずです」


こうして俺達は王宮を出て行くことになったが。




一時間ほどして、嫌な気配がした。



「ジークベルト様、どうか耐えてください!」

「エデン!」


できるだけ気配を消していたが、やはり追手が来ている。


エデンと相乗りをしているので馬の速度をこれ以上は止める事は難しかった。


だが――。



「ぎゃあ!」


「ぐぁぁ!」


矢が飛んで来た。


それも俺達ではなく俺達の追手にだ。


「ジークベルト様!お急ぎください!」

「早くこちらに!」


現れたのは騎士達だった。


旗を見るとあの紋章は!


「宰相閣下よりお聞きしています。お早く!」

辺境地の騎士団の紋章だった。


「エデン…」

「彼等は父の部下です。味方です」


俺は王宮で味方はほとんどいなかったが、ちゃんといたんだな。


それから俺達は追手から逃げるべく厳しい旅の果てに北の領地にたどり着いた。

しかしたどり着いた領地の周りは海で囲まれ雪で囲まれていた。

王宮とは異なり大自然だったので温室育ちだった俺には生きていくのだけでも必死だった。


「ジークベルト様ご空を御覧ください」

「これは…」

虹色のオーロラが見えた。

「どうかこの空を見上げ、負けないでください」


モーリス伯爵。
エデンの父に言われ言葉を胸に刻みながら思い出す。


オーロラはティアと一緒だった。
俺の心を支えてくれている。


だから頑張ろうと思った。





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