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番外編一章第一王子

5.一輪の花

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小さな花だった。
初めて彼女を見た印象は。


薔薇園に迷って泣いているのを見つけ手を繋ぎ出口まで出た。


「ティア!」

「お父様!」


父親らしき人物がすごい取り乱しようだった。


「ありがとうございます殿下。お見苦しい所を」

「いや」

「我が娘のアリスティアと申します」


ルーベルト・アルデンテ侯爵。
騎士団を束ねる人物で母上も信頼をしていると聞く。

噂とは随分と違うな。


「はぁーティアに何かあったら」

「旦那様、公の場ではお控えください」

「うっ、すまん」


傍にいる侍女に叱られている。
本当に噂と一致しない男だった。


「王子様だったの?」

「ん?一応そうだな」

「騎士様だと思った」


「こらティア!」

俺が騎士?
初めて言われたが、嫌な気がしない。


「では君の騎士になろう」

傍にある薔薇を千切り差し出す。

嬉しそうにされるも。


「ダメだぁぁぁあ!」

「旦那様…」

俺が薔薇を差し出そうとするもアルデンテ侯爵が力の限り妨害をして来た。


「ティアには早い!ティアの騎士は私だ!」

「王子様の方が良い」

「なんて事だ!私の可愛い天使が…神よ!」


なんて残念な騎士なんだ。
社交界では噂になる程騎士の誉れだと言われていた男がこんな残念な男だったとは。


「申し訳ありません。旦那様は奥様を亡くされて以来はお嬢様を溺愛されていまして」

…と耳打ちしてくれたのは侯爵家の家令だった。


「そうなのか?」

「周りからは再婚を促されるも、奥様を深く愛しておられまして」


ティアは母親がいないのか。
俺と少し似ていると親近感を抱く。


「ティア、俺がもっと良いところに連れて行ってやる」

「はい!」

「ダメだ!手を繋ぐなんて早すぎる!」

「旦那様落ち着いてください!」


ティアの手を引き俺はお気に入りの場所に連れて行く。


「わぁー綺麗」

「薔薇が好きなのか」

「大好き」


花びらが舞う場所で目を輝かせるティアを見て俺も笑みがこぼれた。


その日から俺はティアと会うようになった。
王宮内の雑音は未だにあるが、ティアと過ごす事で気にならなくなった。


そんなある日、俺とティアが親しいのを知った母上は父上に頼み婚約を了承してくれた。



「ジーク!お父様が私達とずっと一緒にいていいと言ってくださったの!」

嬉しそうに俺に抱き着くティアに顔がにやける。

「嬉しいのか?」

「ええ!だってずっと一緒にいられるのよ」


まだまだ幼すぎるティアはあまり解っていないかもしれない。

それでも嬉しかった。


俺もティアとずっと一緒にいたいと思った。


だけど神様はどうしても俺を苛めたがるのだろうか。


ようやく手にした幸せも奪っていくのだった。


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