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55.別の形なら

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扉越しに聞こえて来たのはロゼッタさんの思いだった。


彼女はずっと苦しみながら私への懺悔をしていたのだ。


「ロゼッタさん…」


扉を開けるか開けまいか悩んだ。

ここで会ってもいいのか。

でも、私自身もこのままでいいとは思っていない。


私はロゼッタさん自身を嫌っていない。
ただ、あの時は自分の苦しみで精いっぱいだった。

ロゼッタさん自身も苦しんでいて、もしかしたら私以上に辛い状況だったのかもしれない。


だから――。


私は一歩を踏み出した。



「アリスティアさん…」


「ごきげんよう」



神官様は全てを察している表情をしていた。

本当に何でもお見通しなのね。
王妃陛下もそうだけど。

この国はこれ程に聡明な方が多くいる。

だから、まだ大丈夫だと思った。



「アリスティアさん…」


「ロゼッタさん、改めてご挨拶申し上げます。私はアリスティア・アルデンテ。アルデンテ侯爵家が娘でございます」

「わっ…私はロゼッタです」


私の言葉を聞いて急いで挨拶をしてくれたロゼッタさん。


これが本当の私達の正式な挨拶だ。



「アリスティアさん…私は!」

「もう良いのです。もういいではありませんか」

「え?」


泣きそうな顔をするロゼッタさんだったけど、顔つきが変わっていた。
王宮に来た頃と違って、自分の意志を強く持てるようになっていたのは、ロゼッタさんの本来の強さなのだろう。


「貴女はただ、何も知らずにティエゴ様を愛してしまった。人の心は鎖で縛る事は出来ません。自分の心に嘘はつけなかったのです」

「だからと言って、誰かを踏みつけにしていいわけでありません。私は王宮に来るべきではなかった。貴女を傷つけてしまって…」

「確かに傷つきました。プライドを傷つけられ、私の矜持を土足で踏みつけられました。ですが私の尊厳を、私の誇りを踏みにじったのは貴女ではありません」


ティエゴ様の考えなしの行動に傷ついたのだ。
そして側近と婚約させてこれまで通りになると安易な考えをしたことに怒ったのだから。


「貴女だってお辛かったでしょうに」

「いいえ…いいえ!」


もし違う形で出会えていたら。


私達はお友達になれたかもしれない。


もしなんて考えても仕方ない事だけど。


ロゼッタさんは両親を深く愛していた。


王妃陛下の言う通り、心根の優しい方だ。

今回は状況に流されてしまったけど、ちゃんと自分の意志で道を見据えたのだから。

平民である彼女が王太子殿下や貴族に口答えなんてできないだろうから、彼女がすべて悪いわけじゃない。


「アリスティアさん」

「ロゼッタさん、私の事はティアとお呼び下さないな」

「はい!」


瞳から零れた涙はとても美しく真珠のようで。


ティエゴ様が彼女に惹かれたのが少しだけ解った気がした。
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