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38.愛する息子~王妃side
しおりを挟む前王妃が亡くなられて喪が明けてすぐ、私は王妃として迎えられた。
身分的にも血筋的にも問題なかったけど、一番の理由は陛下と私が幼馴染で従妹であったからなのかもしれない。
陛下との信頼関係はある。
恋愛感情はなくとも同士としての絆があった。
だけど当時は第一王子のジークベルトとは良好な関係とは言い難かった。
「ごきげんようジークベルト。私は貴方のお母様よ」
「うー!」
挨拶をしても私を怖がり、なんとか受け入れてもらおうと努力したけど、子供の扱いに慣れていない私は難航していた。
「ジーク…」
「ああ、殿下!」
乳母にしがみ付き私を避けて、逃げ回り鬼ごっこが続いた。
「どうしたらいいのかしら。子供にどうやって接すればいのかしら」
幼児とは言えど、生みの親をしっかり覚えている。
私は他人でしかないので、拒絶するのは解るからこそどうしたものかと行き詰っていた。
「気分転換をしようかしら」
王室に入ってから禁じられていたのだけど、お菓子作りを始めた。
我が公爵家は美食と芸術を愛し、厨房に立つ事もある。
美食に拘る理由と、暗殺された過去により自分でお茶を淹れたりするのだった。
私も以前に敵対する派閥の侍女に毒を盛られたこともあり、それ以降はお菓子は自分で作っていた。
「あらジーク?」
物音が聞こえ、私をじっと見る。
「どうしたの?これが欲しいのかしら」
私が焼いたパンを見つめる。
幼児でも食べれるパンなので一口サイズに千切り差し出すと。
「もっと…」
「まぁ!」
目を輝かせながらもっとせがむ。
余程気に入ったのかそれ以降は、私の部屋に来てはパンやお菓子を欲しがった。
それからだった。
ジークベルトは私の部屋に頻繁に来ては一緒に食事をして乗馬やピアノのレッスンをするようになった。
「上手よ。もうこんなに弾けるようになったのね」
「うん!」
膝に乗せてピアノの弾き方を教え、時には剣術の稽古も一緒にしてスキンシップをする内に懐いてくれるようになった。
そんな中私は子を授かった。
「ジーク、貴方に弟をできるのよ」
お腹に触れながら微笑む。
まだ幼いから解らないけどお腹を触らせ、ここに弟がいる事を教えると驚いた表情をしたのは今も覚えている。
新たな命の誕生に私は心から喜ぶむ、王宮内では不穏な噂が流れていた。
「王妃陛下が王子を生まれたらどうなるのかしら」
「そんなのジークベルト様は養子に出すに決まっているでしょ?前王妃の子供と言っても争いの種しかならないしねぇ?」
「まぁ仕方ないわね。それに他国の血筋の王子なんて後から面倒なだけだし」
私は偶然にも耳にしてしまった。
貴族派がジークの事を良く思っていないのは知っていた。
だけど王宮内で私に仕えるメイドや侍女達までもがジークをそんな風に見ていたなんて!
なんて無礼なの!
この時の怒りは今でも忘れることができなかった。
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