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33.私の居場所~ロゼッタside④

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外に出て助けを求めても、ここ最近近所の人は私達を避けていて助けてくれなかった。


顔を見ると避けられ、話を聞いてもらうどころではなかった。



「そうだわ、院長先生なら…」


きっと助けてくれるはずと思って向かった。


「院長先生!先生開けてください!」

教会の扉を叩くも反応はない。


「ロゼッタ?」

「ティエゴ様…」

「どうしたんだ?院長先生は明後日まで帰らないぞ」

「そんな…どうしょう!どうしたら…」

もう頼れる人がいないのに。


「どうしたんだ?」


「お母さん倒れて…」

「何だって?家は何処だ。すぐに向かおう」

「でも!」

「僕がしたくてするんだ」

この時私は藁にもすがる思いだった。
お母さんが倒れて気が動転していたから、他の事に気が回らなかった。


「お父さん!」

「ロゼッタ…なっ!」


ティエゴ様はその後馬車を走らせ家に来てくれた。

「何をするのです!」

「病院に運ぶ。かなりひどい熱だ」

「お待ちください!」


お母さんを運ぼうとしてくれたのは、ティエゴ様と同い年ぐらいの人だった。

時々一緒に見かけるけど、無口な人で私は名前も知らない。


「すぐに私の知り合いの医師に診せますので安心してください」

「お待ちください。私どもには医者に診てもらうお金はありません!」

「何?医者に診てもらうお金が…」


ティエゴ様は驚いた表情をしていた。


「薬代を買うお金もないのです。どうかお引き取りを…このような光景を見られてしまえば、今度はどんな目に合うか…何卒!」

「お父さん!」


無理ができない体なのにお父さんは床に頭をつけて土下座した。


「ご無礼を承知で申し上げます。どうか…もう娘と会うのはお止めください。この国から出て行けと言うなら従います。どうかこれ以上は…」

「どういうことだ…エドガー」

「察するに、ロゼッタさんと殿下が懇意な中であることを貴族が耳に入れたのでしょう。それで父君に嫌がらせをしたのでしょう…その怪我も恐らく」

「そんな!」

「この店も貴族達が手を出して廃業に追い込み、母君は栄養失調のように顔色が悪い」


お母さんはずっと我慢をしていたんだ。


「私の所為だわ…お母さんは何日もご飯を食べていなかったの。私の為に…全部私が」

「ロゼッタ!君は何も悪くない…悪いのはこんな卑怯な真似をする奴等だ。だが、もう大丈夫だ…僕に任せてくれ」

私を抱きしめながら涙を拭うティエゴ様に安堵するもお父さんの目は険しかった。


「父君、僕は彼女とお付き合いをさせてもらっている。将来は彼女を妃に迎えようと思っている」

「え?」

「何を馬鹿な…」

「馬鹿ではない。身分違いがなんだ…ロゼッタはそれに勝る物を持っている。だからここで誓う。彼女は必ず僕が幸せにする!」


私を抱きしめながら宣言してくれたけど、両手を挙げて喜べない自分がいる。


私が妃に?


「ティエゴ様…」

「何も心配しなくていい。僕にすべて任せてくれ」

不安な表情をするもティエゴ様はその後すぐにお母さんを病院に連れて行き、お父さんも療養させてくれた。

そしてその後、私は下町に戻ることなくティエゴ様の側近であるエドガー様の別邸にお世話になる形になったのだった。


だけど…。


私は知らなかった。


誰かの幸せの為に誰かを犠牲にしていたなんて。

ティエゴ様は王子様で、王子様にはお姫様がいる。


そのお姫様を傷つけ追い詰めてしまっている事を後から知ったのだった。


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