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25.馬鹿な男~リィナside
しおりを挟む本当に凡庸な男でしかない癖に、なんて愚かなのかしら。
この程度の事で、目を泳がせ、助けを求めようとするこの馬鹿王子に呆れてしまう。
今までどんなに足らなくても、フォローしていたアリスティアお嬢様がいた事に気づきもしない。
旦那様は、この男の性格を熟知しているからこそ先手を打った。
ここには助けてくれる人はいないし、自称騎士のメディス伯爵も役に立たないわ。
だって伯爵といえど継承した地位で、田舎貴族でしかない。
自身が何か大きなことを成したわけでもないし、他の跡継ぎがいないから伯爵の地位を得ただけ。
護衛騎士になれたのも親戚故だわ。
幼少期からティエゴ殿下の傍にいたというだけで優遇されている。
こんな男がお嬢様の婚約者に慣れるはずがないわ。
「リィナ、アリスティアは何処にいるんだ?」
「はい?」
「彼女を呼んでくれるか?直接話を…」
「申し訳ありませんが、お嬢様は邸にはおりません」
既に国内にいないけれど誰が教えてやるものか。
「ならすぐに…」
「お嬢様は遠出をされておりますわ。これまでは外にも自由に出れませんでしたので、自由を満喫しております」
「えっ…」
何を言っているか解らない表情をしているわね。
本当に何も知らなかったのかしら?
「お嬢様は十年間、王宮と邸以外の外出は制限されておりましたが、先日正式に婚約を解消になり外に出ることも叶いましたの…」
「え?制限…」
「はい、未来の王太子妃候補であるお嬢様は常に自由に外に出ることもできず、見張り役がおりましたので…幼少期の頃はお転婆だった方故に精神的にもお辛そうでしたわ。ですがご自分の心を殺して役目を全うしようとされてましたの」
ハンカチを取り出し涙を浮かべながら流し目で見ると、馬鹿王子は言葉を失っていた。
「そんな馬鹿な…」
「王太子妃は王太子殿下の影ですわ。常に光を支える影となる存在ですので致し方なきことですが…王太子殿下もお嬢様を思うがゆえにこの度は婚約解消をなさったのですよね?お嬢様を自由にするべく」
「言葉が過ぎますぞ!」
立ち上がったメディス伯爵。
その拍子でティーカップがひっくり返り床に落ちて割れてしまう。
紅茶は私の侍女服を汚す。
「きゃあああ!」
「リィナ!」
「お許しください。言葉が過ぎました…どうかご容赦を」
紅茶を被り火傷を負う私は涙を浮かべ頭を下げる。
「リィナ、大丈夫か!メディス伯爵、なんて非道な!」
紅茶で服は汚れ、腕には火傷を負いながらも私は土下座をして涙を流す。
「エドガー、やり過ぎだ」
「申し訳ありません…ですが!」
「メディス伯爵、リィナは殿下に感謝を述べただけだ。殿下は娘に自由な恋愛をして欲しいと告げ、王太子妃の役目から解放し、王室の外を出て自由に生きるようにと命じられたのだぞ」
「何を言っているんだ侯爵!」
私を庇いながら旦那様はさも、王室を出て行くのは全て王太子殿下の命令だと告げれば真っ青な表情で否定する。
「娘からは、殿下より恋する幸せを知って欲しい。真実の愛を見つけて欲しいと仰せだと聞きましたが」
「いや…それは」
「娘の愛する方は今も昔のジークベルト殿下お一人です」
きっぱり告げられた言葉にメディス伯爵は事もなかった。
フッ、ざまぁみろ!
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