上 下
17 / 144

16.出会い

しおりを挟む




私が初めて恋を知ったのは五歳の頃だった。
当時、私はお父様に手を引かれ王宮に来ていたけど退屈した私は抜けだした。


「ここ何所?」


キョロキョロとあたりを見渡しながらも何処か解らずに好き勝手歩き回っていた私は小さな抜け道を見つけて探検していた。


子供にとって王宮の庭園は広すぎた。

勝手に歩き回れば迷子になるのは当然で、私は緑のトンネル抜けた先の迷路に迷い込んでしまった。


「うっ…ふぇ!」

歩いても歩いても同じ道で出口も解らず、泣き出した。


「どうした!俺の庭に誰かいるのか!」

「ジーク様、それが…お嬢様が迷路に迷い込んだようで!」

「何だと?おい、お前!そこから動くんじゃないぞ」

乱暴な声を放った男の子は私に動くなと告げた。

「下手に動くな。いいな?」

「はい…」

本当に見つけてくれるのか、もしかしたら一生一人ぼっちのままじゃないかと不安になり泣いていた私だったが。


「見つけたぞ」

「うっ…ひっぐ」

「何だ?まだ泣いているのか?」


葉っぱを頭につけた男の子は私に手を差し出す。


「もう泣くな。これをやる」


「坊ちゃま!」


差し出されたのは一輪の薔薇だった。


「何だ?固い事を言うな」

「そうではなくてその薔薇は…」

「わぁ!綺麗な薔薇!」


後ろで庭師が真っ青になりながら今にも倒れそうだったが、この時私は初めて見た紫の薔薇に目を奪われた。


「綺麗な紫!」

「花は好きか?」

「うん!」


誰かに薔薇を貰うのは初めてで私は嬉しくなった。

「私、薔薇を貰うのは初めて」

「そうか、じゃあ俺が初めてだな」

この時私はお父様が心配して探しに来ている事も気づかずにはしゃぎ、彼と手を繋ぎ出口を出ることができた。


「ティア!」

「お父様!」


「心配していたんだぞ…どうしたんだ?」


「あのねお父様、薔薇を貰ったの。私の初めてをあげたの」

「はっ…初めて!」

バタン!


「えっ?お父様?」

「旦那様?旦那様ぁぁぁぁ!」


この時、お父様は私が迷子になって居なくなりかなり取り乱していた事もあり、私のとんでもない発言にショックを受け気絶した。



「ティア、紛らわしい事を言ってはダメだろう」

「何故?私の初めてよ?」

「何でもだ、それから薔薇を軽はずみに頂いてはいけない。特に男だ!」

「旦那様、お嬢様はまだ五歳でございます。ご理解されるのは難しいかと」


頭を抱え唸るお父様に対してリィナは冷たい視線を向けていたけど、私はお父様の心配を装にジークベルトとまた会える日を心待ちにしていた。


その二週間後、王宮のお茶会で私達は偶然会うことができ、交流を深めることになった。


その結果。


「ティア、お前はジークベルト殿下が好きか?」

「うん、大好き」

「そうか、国王陛下よりお前と殿下との婚約の申し込みが来た」


第一王子と侯爵令嬢ならば、身分的に釣り合っているので私達の縁談は反対する事はなかった。


大人達の思惑に私は知るはずもない。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?喜んで!復縁?致しません!浮気相手とお幸せに〜バカ王子から解放された公爵令嬢、幼馴染みと偽装婚約中〜

浅大藍未
恋愛
「アンリース。君との婚約を破棄する」 あろうことか私の十六歳の誕生日パーティーで、私の婚約者は私ではない女性の肩を抱いてそう言った。 「かしこまりました殿下。謹んで、お受け致します」 政略結婚のため婚約していたにすぎない王子のことなんて、これっぽちも好きじゃない。 そちらから申し出てくれるなんて、有り難き幸せ。 かと、思っていたら 「アンリース。君と結婚してあげるよ」 婚約破棄をした翌日。元婚約者はそう言いながら大きな花束を渡してきた。

貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。

あおい
恋愛
貴方に愛を伝えてもほぼ無意味だと私は気づきました。婚約相手は学園に入ってから、ずっと沢山の女性と遊んでばかり。それに加えて、私に沢山の暴言を仰った。政略婚約は母を見て大変だと知っていたので、愛のある結婚をしようと努力したつもりでしたが、貴方には届きませんでしたね。もう、諦めますわ。 貴方の為に着飾る事も、髪を伸ばす事も、止めます。私も自由にしたいので貴方も好きにおやりになって。 …あの、今更謝るなんてどういうつもりなんです?

婚約者はわたしよりも、病弱で可憐な実の妹の方が大事なようです。

ふまさ
恋愛
「ごめん、リア。出かける直前に、アビーの具合が急に悪くなって」  これが、公爵家令嬢リアの婚約者である、公爵家令息モーガンがデートに遅刻したときにする、お決まりの言い訳である。  モーガンは病弱な妹のアビーを異常なまでにかわいがっており、その言葉を決して疑ったりはしない。  リアが怒っていなくても、アビーが怒っていると泣けば、モーガンはそれを信じてリアを責める。それでもリアはモーガンを愛していたから、ぐっとたえていた。  けれど。ある出来事がきっかけとなり、リアは、モーガンに対する愛情が一気に冷めてしまう。 「──わたし、どうしてあんな人を愛していたのかしら」  この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

理想の妻とやらと結婚できるといいですね。

ふまさ
恋愛
※以前短編で投稿したものを、長編に書き直したものです。  それは、突然のことだった。少なくともエミリアには、そう思えた。 「手、随分と荒れてるね。ちゃんとケアしてる?」  ある夕食の日。夫のアンガスが、エミリアの手をじっと見ていたかと思うと、そんなことを口にした。心配そうな声音ではなく、不快そうに眉を歪めていたので、エミリアは数秒、固まってしまった。 「えと……そう、ね。家事は水仕事も多いし、どうしたって荒れてしまうから。気をつけないといけないわね」 「なんだいそれ、言い訳? 女としての自覚、少し足りないんじゃない?」  エミリアは目を見張った。こんな嫌味なことを面と向かってアンガスに言われたのははじめてだったから。  どうしたらいいのかわからず、ただ哀しくて、エミリアは、ごめんなさいと謝ることしかできなかった。  それがいけなかったのか。アンガスの嫌味や小言は、日を追うごとに増していった。 「化粧してるの? いくらここが家だからって、ぼくがいること忘れてない?」 「お弁当、手抜きすぎじゃない? あまりに貧相で、みんなの前で食べられなかったよ」 「髪も肌も艶がないし、きみ、いくつ? まだ二十歳前だよね?」  などなど。  あまりに哀しく、腹が立ったので「わたしなりに頑張っているのに、どうしてそんな酷いこと言うの?」と、反論したエミリアに、アンガスは。 「ぼくを愛しているなら、もっと頑張れるはずだろ?」  と、呆れたように言い捨てた。

【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ
恋愛
リール王太子殿下とサリー・ペルガメント侯爵令嬢は六歳の時からの婚約者である。 二人はお互いを励まし、未来に向かっていた。 しかし、王太子殿下は最近ある子爵令嬢に御執心で、サリーを蔑ろにしていた。 サリーは幾度となく、王太子殿下に問うも、答えは得られなかった。 二人は身分差はあるものの、子爵令嬢は男装をしても似合いそうな顔立ちで、長身で美しく、 まるで対の様だと言われるようになっていた。二人を見つめるファンもいるほどである。 サリーは婚約解消なのだろうと受け止め、承知するつもりであった。 しかし、そうはならなかった。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

そんなに幼馴染の事が好きなら、婚約者なんていなくてもいいのですね?

新野乃花(大舟)
恋愛
レベック第一王子と婚約関係にあった、貴族令嬢シノン。その関係を手配したのはレベックの父であるユーゲント国王であり、二人の関係を心から嬉しく思っていた。しかしある日、レベックは幼馴染であるユミリアに浮気をし、シノンの事を婚約破棄の上で追放してしまう。事後報告する形であれば国王も怒りはしないだろうと甘く考えていたレベックであったものの、婚約破棄の事を知った国王は激しく憤りを見せ始め…。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

処理中です...