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14.懐かしい手

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すべすべした手ではなく剣を持つ手だった。
お父様と同じ手で握られ私はなんとなくだけど懐かしさを感じた。



「このまま踊るぞ」

「は?」

「舞踏会なんだから踊らないわけには行かないだろ?それとも過去の男に未練があるか?」


「いいえ、まったくありませんわ」


売り言葉に買い言葉。
ここで踊れないなんて私のプライドが許さない。

「多少は荒いが大目に見ろ」

「よろしくお願いします」


何が何でも完璧に踊って見せるわ。



――と思ったが。


この方、踊り慣れている。
それにリードがすごく上手かった。


「まぁ、第一王子殿下がダンスを」

「噂では踊れないとか」


社交界ではダンスを誘われても踊らないと聞いていたけど。

「ダンスが下手な令嬢の相手なんて時間の無駄なだけだ」

「はぁ…」


性格は何とも言えないわ。
ティエゴ様とは全くの正反対であるけど。


「だが、俺のリードについて来るとは」

「この程度、当然です」


「そうか」


グイッと腕を引かれ、更にテンポを上げられる。

「流石にこれは無理か?」

「いいえ、問題ありません」

挑戦的な眼で私を試そうと言うのか。
ここまで来たら私も全力で相手をするまでだわ。

これまでずっとティエゴ様のダンスの相手をして来たのだから。
男性がリードしやすいように気を使って来た私が後れを取るなんてありえないわ。


「いい目だな?大人しくしているのはらしくない」

「私の何を知っておっしゃるのです」

「今は言わない…直に教えてやるさ。色々な?」


吸い込まれるようなアメジストの瞳。
見る者を捉えてしまうようなこの色に私は何も言えなくなった。


「そんな不安そうな顔をするな。取って食おうと思っていない」

「何故あのようなお戯れを」


この方の真意が解らない。
本気で私と婚約する気なのだろうか?


「今は知らなくてもいい。言っただろう?悪いようにはしない」

「悪いようにって…ぷっ!」

「何だ?」

余りにもおかしくて笑ってしまった。
思わず仮面を引きはがされてしまったのに、不快ではない。


「そんなに面白いか?」

「悪いようにしないだなんて…まるで」

第一王子殿下ともあろう方がおっしゃる言葉ではないわ。


「氷のような表情は似合わない。その方が良い」

「え?」

「義理は果たしたな?行くぞ」

「お待ちください!何処へ!」


まだ舞踏会の途中だと言うのに抜け出す気なの?

そんな無礼な!


「ちゃんとダンスを踊ったんだから問題ない」

「そんな!横暴な」

腕を引かれそのまま私は広間から連れ出されてしまった。


強引な手がどうしても懐かしく感じた私は拒絶もできずに従うより他なかった。


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