上 下
10 / 144

9.決意

しおりを挟む



私は常に前を向いて歩いて来た。

だから私は、後ろを振り向かず堂々と舞踏会に出ないと。


「大丈夫、大丈夫よ」


鏡に向かって笑顔を浮かべながら私は決意する。

「誇り高きアルデンテ侯爵家の娘が下を向いてはダメよ」

パンパンと頬を叩き、悪意からも真正面から立ち向かわないと。

「大丈夫…大丈夫」


自分に言い聞かせながら私の手にある一輪の紫の薔薇。


「そうだわ、これをお守りに持って行きましょう」


そして普段は首元に隠していたペンダント。
私が幼い頃から大切にしている宝物でもあるこれを身に着けて行きましょう。


「お嬢様、お時間です」

「ええ…どうしたの?」

「いいえ、お嬢様が薔薇の花を身に着けるのは久しぶりですね。とっても良くお似合いです」


そう言えば何時からか、私は花を身に着けなくなった。


殿下が派手な格好を好まれなかったから。

薔薇は華やか過ぎるから目立つからと。
殿下よりも目立つのは良くないと言われた私は髪飾りはシンプルで目立たない物にしていたけど。


本当は――。


「リィナ、まだ時間はあるわよね?」

「はい」

「髪型を変えて欲しいの」


もう偽る必要はない。
殿下に合わせる必要もないのだから。


この舞踏会に参加した後に、私は決断をしていた。


「昔の髪型にしてくれる?」

「はい!」

髪を降ろすようになったのは何時からだっただろう。


人目を気にして、常に見られる生活を強いられたのは。


そして剣を捨てたのは?

本当は騎士になりたかった。
お父様の後を引き継ぎ、剣を手に取り国を、国民を守りたかった。


けれど王太子妃候補に選ばれてから私は多くの者を手放したわ。


夢も、自由も、ささやかな幸せも。

けれど私はもう、自由になるわ。


「リィナ、私はもういいかしら?」

「はい?」

「もう、無理をしなくてもいい?頑張らなくても…悪い子になってもいいかしら」


私は良い子でいる事に疲れてしまった。
本当なら殿下の命令に従いすべてを受け入れ感情を殺すのが良いのかもしれない。

だけど、私の人生は私の為に生きたい。


「殿下に新しい婚約者を紹介すると言われたわ。既に決定事項で婚約を決められ、相手はメイデン伯爵様だと」

「なっ!正気の沙汰ですか…何様です!」

手に持っているブラシを握りミシミシ音がしている。
きっとリィナは怒ると思ったけど、隠し通せる自信がなかった。

だから事前に伝えることにした。

「例の少女を我が家の養女にして私に教育を任せたいとおっしゃったの。そして一生お二人に仕えるようにと、メディス伯爵と結婚し、彼を侯爵家の婿にと」

「信じられません!酷いです…あんまりですわ!」

「そうよね?酷いわよね…友人としての情も無くなったわ」

恋心はなかったけど、殿下への親愛の情も消える程だったわ。


「私は殿下の恋を反対するつもりはないけど、応援もしないわ」

「当然です!お嬢様は陛下の奴隷じゃないんですよ!所有物じゃないんです…あの方はお嬢様に心があるのを忘れています」

自覚が無いからと言って何をしても許されるわけじゃない。
でも、あの口ぶりからして私の意思を勝手に決めつけ、メディス伯爵と婚姻を結ばさせられるだろう。


最悪の場合も考えられる。


「私はこの舞踏会が終わったら国を出るわ」

「お嬢様…」

「殿下は私がすべて受け入れて当然だと思っておられるでしょう…できるはずがないわ」

社交界で一生笑い者にされるのは明白だから。

ならば手が出せない方法が一つだけあるわ。


「この国にいて貴族のままだったら私は…メディス伯爵と結婚させられるわ断れば侯爵家がどんな目に会うか」

「お嬢様…」


だから私はこの国を出て修道院に行くわ!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

【完結】可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~

Rohdea
恋愛
特殊な力を持つローウェル伯爵家の長女であるマルヴィナ。 王子の妃候補にも選ばれるなど、子供の頃から皆の期待を背負って生きて来た。 両親が無邪気な妹ばかりを可愛がっていても、頑張ればいつか自分も同じように笑いかけてもらえる。 十八歳の誕生日を迎えて“特別な力”が覚醒すればきっと───……そう信じていた。 しかし、十八歳の誕生日。 覚醒するはずだったマルヴィナの特別な力は発現しなかった。 周りの態度が冷たくなっていく中でマルヴィナの唯一の心の支えは、 力が発現したら自分と婚約するはずだった王子、クリフォード。 彼に支えられながら、なんとか力の覚醒を信じていたマルヴィナだったけれど、 妹のサヴァナが十八歳の誕生日を迎えた日、全てが一変してしまう。 無能は不要と追放されたマルヴィナは、新たな生活を始めることに。 必死に新たな自分の居場所を見つけていこうとするマルヴィナ。 一方で、そんな彼女を無能と切り捨てた者たちは────……

愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが

Rohdea
恋愛
結婚式の当日、花婿となる人は式には来ませんでした─── 伯爵家の次女のセアラは、結婚式を控えて幸せな気持ちで過ごしていた。 しかし結婚式当日、夫になるはずの婚約者マイルズは式には現れず、 さらに同時にセアラの二歳年上の姉、シビルも行方知れずに。 どうやら、二人は駆け落ちをしたらしい。 そんな婚約者と姉の二人に裏切られ惨めに捨てられたセアラの前に現れたのは、 シビルの婚約者で、冷酷だの薄情だのと聞かされていた侯爵令息ジョエル。 身勝手に消えた姉の代わりとして、 セアラはジョエルと新たに婚約を結ぶことになってしまう。 そして一方、駆け落ちしたというマイルズとシビル。 二人の思惑は───……

義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!

ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。 貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。 実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。 嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。 そして告げられたのは。 「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」 理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。 …はずだったが。 「やった!自由だ!」 夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。 これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが… これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。 生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。 縁を切ったはずが… 「生活費を負担してちょうだい」 「可愛い妹の為でしょ?」 手のひらを返すのだった。

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

処理中です...