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第一章
20現在
しおりを挟むランドルフとカナリアの婚約が破棄となった数日後。
「なんて事をしてくれたんだ!」
「ですが…」
「言い訳は良い。大事なお客様の婚約者に手を出すとはどういう神経をしているんだ。お前には期待していたというのに…カナリア様は女官を辞職し、社交界から事実上の追放だ」
「え…どうして」
「貴族の婚約は国王陛下の許可の元婚約する。それを無断で破棄すれば責任は問われる…特にカナリア様の家は王家に忠誠を誓う家だ」
「だからって」
「お前が思うよりも貴族はしがらみが多い!カナリア様は全ての責任を負わされたんだ…あの方の生き甲斐を奪ったんだ!もうあの方に残された道は修道院に行くか、誰も知り合いのいない国外で生きるかだ」
この時私は初めて自分が罪を犯したことに気づいた。
エミリーはカナリア様を破滅させたかったわけじゃない、何もかも持っているから。
「カナリア様のご両親はこれまで王家の為にすべてを捧げて生きてこれた。家族も顧みずに」
「え?」
「文官という職種はそれだけ多忙だ。他人からは羨まられながらも責務はどれ程重いか…それでも子爵夫妻は全てを捨て仕えられた」
息を飲んだ。
エミリーは何もかも持っていて、強欲すぎると思っていた。
「王家が死ねと言えば死ぬ。どれがウィスター家だ」
「死ぬ…」
「王宮勤めの女官の責任は重い。お前のした事はそれだけ重い…いや、宰相閣下の奥方が可愛がっておられる令嬢を追い詰めたとなれば私達も裁判で訴えられるだろう」
そんなつもりじゃないかった。
「そんなにカナリア様をそこまで憎んでいたのか」
「会長!」
「婚約者を奪いこんな形であの方を侮辱し、矜持を傷つけ何もかも奪って謝罪もない。お前を雇ったばかりに…お前さえいなければ!」
優しかったキャスティ商会の会長はエミリーへの憎しみよりも自分の見る目の無さを悔いていた。
「もっと早くに気づけなかった。お前の狡猾さに」
「そんな…そんな言い方あんまりです」
エミリーはそこまで冷酷な事を考えていたわけではない。
軽く考えていただけだった。
貴族の結婚が当人同士だけの問題じゃないなんて知らなかった。
「私は彼を愛して…」
「ならば法廷で裁れろ。己の愛の為なら多くの人を不幸にしても良いと訴えても誰にも賛同しいない」
冷たく射貫くような視線を向けられその日のうちにキャスティ商会から追い出されたのだった。
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