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第一章

19あの日②

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相手はお得意様。
お客様である以上は嫉妬心なんて見せてならないと思いながらも抑えきれなかった。



「遅くなってすまないカナリア」

「まだそんなに過ぎていないわ」



一時間ほど遅れて現れたのは婚約者のランドルフだった。
優し気な表情と、美しい面立ちだった。


今まで見て来た貴族とは異なり、平民である商人達にも分け隔てなく優しく、エミリーにも同じように接していた。


「どうかよろしく頼む」


「はい!」


優しくされた事。
さりげない気遣いが嬉しくて、エミリーはランドルフに好意を持つのに時間がかからなかった。
打ち合わせの最中、女官として多忙なカナリアがこれなくなることも多々ある中。


「お忙しいんですね」

「ああ、彼女は女官だからな。王妃陛下の秘書でもある、父君は宰相閣下の右腕だ…」

時折寂しそうな表情をするランドルフにエミリーはカナリアに対して苛立つようになった。
仕事が忙しいのにかまけてこんなに優しい婚約者を放っておくことが許せなかった。



対するランドルフも、カナリアとは異なり愛らしく素直なエミリーに惹かれ。


その日はウエディングドレスについて話し合いをする中。


二人の間に特別な感情が芽生えだし、新しい新居が完成した。



「素敵なお邸ですね…本当に」

「良かったら見に来るかい?」

「でも、カナリア様より先に」

「気にしないさ」


この時、エミリーは花嫁よりも先に自分に新居を見せてくれることに罪悪感よりも優越感を感じた。


「素敵な家具・・・」

「そうかい?」

「こんなお邸に住めたら幸せでしょうね」


(どうして…何で!ズルい…)


優しい両親に優しい婚約者。
将来も安泰で立派な肩書を持っていて。


「羨ましい…」

「え?」

「私はカナリア様が羨ましいです。ランドルフ様と結婚できるあの方が」


「エミリー…」


涙目で訴えるエミリーに戸惑いを感じながらもその瞳が合意だった。


「ごめんなさいランドルフ様」


「ランドルフで良い」


二人の心が同じだった。

新居の寝具で二人の影が重なりキスを壊した。


そしてその夜から二人は新居にて密会を重ね。
打ち合わせと偽り、デートを重ね一線を越えて二人は愛を育んだ。



「カナリアとは別れて君と一緒になる」

「ランドルフさん…」

「大丈夫だ。彼女とは政略的なものだし、話せば解ってくれる。官僚の娘だから公で問題を起こしたりしない」


男の言い分は時に自分勝手なものだった。
男性側から婚約破棄を突きつけられたらどうなるか。


「婚約解消じゃないんですか」

「ああ、それでは甘い。破棄の方が思いがないだろうし…解消と破棄でも変わらない。彼女は仕事さえあれば生きて行ける人だ」

「はい」


ランドルフよりも仕事を優先していた。
だから愛していないなら自分が貰っても問題ない。


(一つぐらいいいはず)


エミリーは罪悪感を感じる事もなかったのだった。



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