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第一章
2社交界
しおりを挟む婚約破棄の噂はは瞬く間に広まるも、王宮勤めの女官が理由なく休むわけには行かない。
「見て、よく顔を出せたわね」
「本当に、どういう神経しているのかしら」
「でも、今日で終わりでしょ」
王宮内を歩くと、カナリアが婚約破棄を突きつけられた事を面白可笑しく噂する令嬢や、夫人が底意地悪く笑っていた。
(今日は随分多いわね)
普段から王宮に出入りする人が多く感じる。
特に若い令嬢の数が何時もの倍で、美しく着飾る夫人も多かった。
(何か行事があったかしら?)
王宮内の小さなお茶会から行事まですべて把握していたつもりだった。
「もう女官を辞めることになる私が何を」
苦笑するカナリアは考える事は女官の仕事ばかり。
自分が一人抜けても優秀な女官は多くいるのだから問題はない。
嫌味な事を言う人は無視をしていると。
目の前で何やら言い合っている様子が見えた。
「しかしだな…」
「ですからこっちも!」
宰相様とこの国ではまず見ない方だった。
白磁のように白い肌と漆黒の髪に透き通るような瞳だった。
「カナリア!ちょうどよかった」
「宰相様、失礼いたしました」
「今は良い。通訳を頼みたい」
父の上司である宰相閣下に他国の貴賓の方の通訳を頼まれる。
「晩餐間に出た食事の事でトラブルがあったんだ」
「かしこまりました」
私は相手方に膝をつく。
『ご無礼をお許しくださいませ勅使様』
『貴女、言葉が解るのですか』
『はい、昨夜の晩餐会にて我が国の配慮が至らぬばかりか、無礼をお詫びいたします』
『私の不満の晩餐会で振舞われた料理の事が』
東帝国とでは食文化が異なり、歓迎の意味で用意した料理の中に不吉を意味する料理が出されていたそうだ。
彼等も我が国の意図に気づかなかった。
誤解が生じた事で諍いになってはならない。
私はそのことを十分に伝えお詫びをすると勅使の方は理解してくださった。
「カナリア、ありがとう」
「いいえ…そのような」
宰相様に頭を下げていただくなんて恐れ多いわ。
「私からもお礼を申し上げます女官殿」
「あの…」
「貴女は随分と語学が堪能ですね」
「エンディミオン殿。彼女は侍女時代から優秀で父君は私の補佐で母君は文官秘書です」
「ご家族そろって素晴らしい才能ですね」
(初めて言われた)
カナリアは女の癖に生意気だと言われ可愛い気がないとも悪く言われた。
「先ほどの振る舞いも見事で、圧倒されました」
「そのような…ですが、最後にお役に立つ事が出来て嬉しゅうございます」
「最後?」
今日が最後の日だった。
既に辞表を提出して、辞める準備もしている。
「カナリア、考え直してくれないか。君に何の罪がある…あの男は不貞行為をしただけでなく社交界で触れ回っているというじゃないか。君は被害者だ」
「ありがとうございます」
解ってくれる人がいる。
それだけで十分だともうカナリアはこれ以上迷惑をかけたくなかった。
「私は貴女の事情を知りません。ですが貴女程の優秀な女性は知りません」
「ありがとうございました」
「伯爵、無礼とは思いますが彼女をどうか」
「しかし…」
深刻そうな話をしている二人にカナリアは置いてきぼりだった。
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