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第一章
29傍観の聖女
しおりを挟む二人の聖女が絶えず口論を重ねる。
「こうなったのもアンタの所為よ」
「始めたのは貴女じゃない!第一貴族なんだから何とかしてよ」
醜い言い合いにもう一人の聖女ルーアンは無視をして読んでいた本を閉じて談話室を出て行く。
傍にいる侍女はオロオロしているだけで何もできない。
去ろうとするルーアンに助けを求めるような視線を送るもルーアンからすれば知った事ではない。
痺れを切らした一人の侍女が声をかけるのだが。
「ルーアン様!」
「何?」
「いえ…ですから」
視線を二人に向ける侍女に気づかない振りをする。
「私はこれから担当領地に向かうから」
「でしたら、どうか…」
「二人は余裕のようね」
「は?」
侍女の言葉を遮るようにして告げた言葉に他の侍女も言葉を失う。
「今結界の維持ができない状況で王都は大きな被害が起きているわ。なのに意味の無い言い合いをするなんて」
「そんな!」
「でもイライザは子爵家のご令嬢だし、伝手はあるようだものね?」
この緊急事態にてルーアンはあらゆる手を考えていた。
角界が崩壊した後に領地に張り巡らせた聖魔法も意味を失うだろうが、まだその時ではない。
「結界が完全に消える時、何を意味するか…民が暴動を起こさなければ良いのだけど」
「暴動…」
「そうでしょう?回復魔法に関しても多額の報酬金をせしめていたんだから。これまで彼女の功績を自分の功績にして殿下と共謀してあくどい事をして来たのは知っている人間は多いわ」
「待ってください!ならば…」
「既に王都では噂になっているわ。真の聖女を追い出した国王と王太子殿下。そしてお妃候補を巡って愚かな、姉をした二人の聖女は女神の怒りを買ったと」
ルーアンは淡々と告げる事に侍女達は声を荒げた。
まるで自分は関係ないと言いたげな言葉が許せなかった。
「何を…」
「私は私に与えられた仕事をするまでです。二人はっ余裕なのでしょう?普段から殿下の後を追いかけまわし、聖女の仕事を疎かにしているのだから」
「でしたらどうか…」
「まさか私に助けろなんて言わないわよね?普段から私を毛嫌いしているんだもの」
イライザとミーシャは常日頃からルーアンを敵視して聖女としての品格が無い。
本ばかり読んで役に立たないと言っていた。
「私は結界維持以外の方法を探していても二人はなんて言ったかしら?貴女達も」
「あっ…」
この時になって侍女は過去の失言を思い出す。
言ってはならない言葉を言ってしまったのだけど、もう取り消す事は不可能だった。
「私のようなハミダシ聖女の力なんて必要ないでしょう」
冷たく言い放たれ、そのまま去って行くルーアンは振り返る事もなかった。
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